全国学習塾協会会長の石井正純氏は冒頭、京都での事件後、経済産業省、内閣府、警察庁、文部科学省より事件の再発防止策を求められ、4省庁の協力のもと「学習塾に通う子どもの安全確保ガイドライン」を策定したことを参加者に改めて説明。ガイドラインを広く全国の学習塾経営者に知ってもらえるよう取り組んでいるが、熱心にセミナーへ参加する塾経営者は多く、子どもの安全に対する関心の高さを実感していると述べた。
続いて、経済産業省商務情報政策局サービス産業課企画官の高野芳久氏は、民間教育産業としての学習塾の健全な発展には、通塾する子どもの安全確保は不可欠であり、義務と考える。ガイドラインに沿った一層の取り組みを期待する旨を述べた。
文部科学省生涯学習政策局生涯学習推進課民間教育事業振興室長の濱口太久未氏からも、子どもの安全に関する問題は文科省において最重要課題の一つであり、小宮教授の講演から有意義な示唆を得られるものと期待しているとの挨拶がなされた。
講演「学習塾に通う子どもを犯罪からどう守るか
−機会なければ犯罪なし−」
立正大学文学部社会学科教授 小宮 信夫氏
つい先日も、横浜で学習塾へ自転車で通う中学3年生の男子生徒が、腹部を刺されるという事件が起こりました。命に別状のないケースでは、あまり大きく報道されませんが、子どもが傷害を負う事件は、実際にはかなり起きていると考えられます。
日本の犯罪防止対策は、これまで「犯罪原因論」に影響を受けてきました。犯罪が起きた原因をつきとめ、再発防止をしようとする考え方で、多くは犯罪者に注目します。しかし、人に注目しても真の動機を解明できることはほとんどなく、同様の犯罪は繰り返されます。警察は事件の事実確認を行うことが仕事であって、原因を究明する専門家もいません。
今年、岐阜県中津川市のパチンコ店の廃屋で、女子中学生が男子中学生に殺害されるという事件がありました。報道によると、男女間トラブルが原因とされていますが、本当でしょうか。仮にそれが本当なら、もっと男女間トラブルが多発する学校で事件が頻発しても不思議ではありません。でも、現実には起こりません。ここに犯罪防止策としての「犯罪原因論」に限界が見えます。
そこで、20年ほど前に欧米で注目され始めたのが「犯罪機会論」です。犯罪者には注目せず、犯罪を行おうとする人間がいたとしても、実行できる機会が無ければ犯罪は起きないという考え方から、犯罪を誘発する機会を減らそうとする防止策です。“機会なければ犯罪なし”というわけです。
中津川市の事件で、パチンコ店の廃屋が撤去されていたなら、または自由に出入りができないように鍵がかけられていたなら、首を絞めるのに使った幟旗が放置されていなかったなら、あの事件は起きていませんでした。犯罪を起こさせる機会こそが事件に結びついているのです。
必要なことは犯罪者、不審者といった人に注目する発想から、犯罪機会を減らす発想へと変えていくことです。各地の小学校で授業を行っていますが、最近は小学1年生でも「不審者」という言葉を知っています。ところが「不審者ってどういう人?」と尋ねると、「変な人」「怪しい人」「サングラスをかけている人」などと答え、ついには「知らない人」という子どもも出てきます。知らない人はみんな不審者になりかねません。私は教育の基本は「人を信じること」だと思っています。この原理を絶対にはずしてはならないと思います。犯罪を減らすために注意を払うべきは人ではなく、場所だということなのです。
――犯罪が起こりやすい場所――
- 入りやすい場所 (犯罪実行後も逃げやすい)
- 見えにくい場所
- 落書きやゴミが放置されている場所(住民の無関心が表れている)
――犯罪を防止する対策――
- 住民同士のネットワークをつくる。
- 街灯を増やしたり、木の枝を間引くなど。
- ゴミなどを放置せず、地域の秩序が守られていることを示す。
- 子ども自身に危険を発見する習慣づけや、危険に対応する力をつける。
(地域安全マップの作成、危険と思われる場所へ1人で行かない)
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