持てる力を再認識させ
新たな能力に気付かせる
今年で41回目を迎える東京文化中学校・高等学校の「創作舞踊発表会」が9月22日、国立代々木競技場第二体育館において開催された。冒頭、堀越直子校長が挨拶の中で“ダンス”それは、踊る人がきらきらと輝いて生きている証。“ダンス”それは、見ている人を楽しく幸せにするもの。“ダンス”それは、踊る人と見る人の心をつなぐ絆――と、ダンスの魅力を紹介し、顔を上げ、胸を張って日ごろ積み上げてきた成果を発揮して欲しいと述べた。
創作ダンスの発表は41年前に体育祭での一種目として始まった。その後、体育科のカリキュラムの一貫として授業に取り上げ、力を注ぐうちに“名物行事”としての位置を占めるまでになった。クラス単位で創作ダンスを作り上げる教育的価値について、広報部長の藤井三惠子教諭は「そのプロセスですべての生徒の力が発揮できると考えています。振り付けから、衣装作り、発表会の運営はすべて生徒が行っていますが、例えばダンスが苦手な生徒が衣装作りで活躍したり、意見のとりまとめが得意だったりと、それぞれの生徒に得て不得手はあっても協力し合って創り上げていくところがこの行事の良さです」と語る。
各生徒の持てる力を再認識させ、また一方で、それまで気付かなかった自分自身の能力を発見し、開花させる。創作課程で得た自信と達成感が、観る人に感動を与えるダンスとして総括されていくのだろう。
演技に先だって審査基準が発表された。まず、強調したいテーマが表現されているか。伝えたいことが見えているか。隊形変化に工夫がなされているかといった構成についての観点。次に、テーマを訴えるための動きを精一杯踊れているか。入場から退場間際まで表現しているかといった表現力について。3点目に、表現を盛り上げるための工夫がナレーションなどで工夫されているか。踊りと題名がマッチしているかを見る。最後に衣装についても創作活動の一部として自分自身の手で作れたか。また、表現を豊かにするための工夫がなされているかなどがポイントとなる。
これらの観点を高度にクリアし最優秀作品に選ばれるのはどのチームなのか。
「YOSAKOIソーラン」の迫力あるオープニングが熱演の幕開けとなった。
社会事象もコミカルに
惹きこむ表現力に圧倒
可憐で一生懸命さに好感が持てる中学生の演技から、高校生になると世の中の事象に目が向き、そのことに対する生徒たちなりの思いが表現される作品へと変わっていく。高校1年の部で最優秀に選ばれた作品「You(酔う)はオヤジ」は、世のサラリーマンのペーソスをくみ取りながらも、アルコールに飲まれていくだらしのなさをコミカルに突いた作品だ。
また、高校2年の部で最優秀に選ばれた作品「変差値」は、いわゆる偏差値が変化することによって翻弄される中高生の心理をパロディ仕立てで演じた秀逸作品。衣装も左右で丈が違うパンツルックはユニークで、生徒自身が置かれている立場からの発信が、メッセージの強さとなって表現されていた。
会場に身を置いていて、観客が惹きこまれていくのが肌で感じられたのは最終学年、高校3年の作品だ。なかでも最優秀賞を勝ち得た「ワクワクDAYs〜おもいのままに〜」は踊り手一人ひとりの表情が、体全体を使う表現以上に観る人に雄弁に語りかけていた。アドリブ的演技も織り交ぜながら、全体としてのまとまり、見せ場、小道具とどれをとっても妥協のない演出は見事というほかはない。観客を惹き込む踊り手(=生徒)自身が、これ以上ないというほど楽しんでいる。別クラスの生徒から声援が送られ、観客から惜しみない拍手がひときわ大きく響いていた。
同校では無論ダンス部の活躍が目覚しく、対外的に高い評価を受けていることから、ダンスの技を磨きたいという目的で入学してくる生徒もいるという。また、踊ることに関連したさまざまな分野に進路を見出す卒業生も少なくない。 |
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分担と話し合いで
創り上げた発表会
午前の部が終了後、観客席では思い思いに昼食をとる姿が見られたが、そんな時でさえ熱心に午後の部に向け練習をする姿も見られた。スタジアムに練習場所が確保できないチームは、広めのスペースを見つけて練習や打ち合わせを行うほど熱心で、この生徒たちのヤル気はどこから来るのだろうと少なからず驚かされた。だが、生徒にインタビューをしてみて、その一生懸命さの理由に納得がいった。
5〜6人で話をしていた高校2年生に
――今日の衣装(アラビアンナイト風)は、どういう風に決めましたか。
Aさん:衣装係が考えたデザインをみんなで生地を買ってきて縫いました。
――皆さん、お裁縫は得意なんですか。
Aさん:そう言うわけではないのですが・・・(笑)。何とかみんなで創り上げました。
――踊ることが苦手という人は居ませんか。
Bさん:ここにはいないです。楽しいですよ。踊ること。
――苦労されたことはありましたか。それはどんなことでしたか。
Aさん:何かを決めようとした時、みんなの意見がばらばらでまとまらなかった時は困りました。
――その時、どう切り抜けましたか。
Aさん:話し合って・・・納得するまで話をしました。
最優秀賞を受賞した高校3年生の1人に
――踊っている時の満面の笑顔が印象的でしたが。
Cさん:ずっとダンス部で「笑顔を作ることは基本」と教わってきました。でも、みんなで踊ってるとすごく楽しくて、自然に笑顔になりますね。
――今日を迎えるまで、いろいろな作業や話し合いがあったと思いますが上手くいきましたか。
Cさん:衣装を担当する子、踊りを創りあげる子という具合に分担をしっかり決めました。それで、その担当が指示を出してくれた時は、みんなで協力してやってこられたと思います。
――すばらしいダンスを見せていただきましたが、進路を考える上でダンスは関係してきますか。
Cさん:私はすでに児童学科に進路が決まりましたが、ダンスは好きですので、これからもずっと続けていこうと思っています。
周囲の皆さんと:ありがとうございました。
――こちらこそ、ありがとうございました。
ダンスは楽しめなければ踊れない。楽しんで踊る姿を目にすることは見る側の気分を和ませ、そこに伝えたいメッセージが込められていれば、ステージと観客席が一体感を持つ。そのことのすばらしさを、この発表会で汗を流した生徒たちはすでに知っている。とびきりの清々しさをもらい、熱気に包まれた会場をあとにした。
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