東京ドームのおよそ10倍に当たる広大な敷地に、1万本以上の大木が連なる。麗澤大学のキャンパスはまるで森のよう。春には満開の桜が彩り、夏には輝くような緑の葉が茂り心地よい木陰をつくる。ときには目の前をウサギが駆け抜けていくことも。この自然豊かなキャンパスで、世界各国からの留学生を含む3,200名の学生が学んでいる。
麗澤大学は1935年に法学博士廣池千九郎によって設立された「道徳科学専攻塾」をその前身とする。創立以来「知徳一体」の教育理念に基付き、少人数教育により国際社会に貢献し得る人材の育成に力を注いできた。現在は外国語学部と国際経済学部の二学部を設置している。
国際共通語としての英語
「現代GP」とは文部科学省が昨年度より開始した事業で、社会的要請の強い政策課題にマッチする優れた教育プロジェクトに対し、財政支援を行うもの。これに麗澤大学外国語学部の教育プロジェクト「国際共通語としての英語教育」が選ばれた。テーマは「仕事で英語が使える日本人の育成」という政策課題に応えようとするものだ。
いま世界の四分の一の国で英語が国際共通語として使われている。従ってビジネスシーンで、英語で話す相手は英米人とは限らない。むしろ東南アジアや中国など非英語圏の人々である方が多いかもしれない。
外国語学部長の中山理教授は「これまでは、英米の地域文化のなかで話される英語を学んできました。しかし、それでは英米の発想で英語を話すことになる。本学では、多角的にものを見る能力や、多文化理解の視点を育てたい」と話す。
例えば、「訳がわからない」とか「ちんぷんかんぷん」という意味の "It's Greek to me"。Greekを母国語とするギリシア人の発想からは決して生まれない英米的な言い回しだ。同様に中国人は中国的な発想の英語を話す。それを理解するにはある程度中国語の知識や文化的理解が必要となる。
同大学の教育プロジェクトは、英語力を養うだけでなく、多種多様な人種的・文化的背景を持つ外国人と円滑にコミュニケーションできる能力を育成するよう組み立てられる。
多言語修得プログラム
外国語学部には英語・ドイツ語・中国語・日本語の四学科があるが、今回の教育プロジェクトは全学科を対象としている。内容は「第二外国語科目の充実」や「課外における英語使用空間の充実」など、従来から実施してきたプログラムを体系化し発展させた。その中で核となるのが「多言語・多文化総合カリキュラム」と「クロス留学」だ。
「多言語・多文化総合カリキュラム」は文字通り、各学科の壁を越えて専攻以外の言語や地域文化を学ぶ。
例えば1年生を対象とした「総合科目」では、先生方が交代で講義を受け持ち、それぞれの専門言語と社会・文化についてわかりやすく解説。幅広い視点を学生に提示する。いわばガイダンス的なオムニバス授業である。
教務主任の櫻井良樹教授は「多文化世界への関心を喚起するためのひとつの方法です」と話す。
他学科の言語に興味を持った学生には「多言語修得プログラム(Multilingual Expert Program)」が用意されている。
これは1・2年次の段階で専攻語と第二外国語で一定の成績を修めれば、他学科の専門演習科目も履修できるプログラム。例えばドイツ語学科の学生であっても、英語学科の専門演習科目を履修できる。専攻語と第2外国語の両方の力を伸ばせる仕組みだ。
さらに「クロス留学」も可能だ。「クロス留学」は、第二外国語を母語とする地域の大学で、専攻語を学ぶ制度。例えば、英語学科で第二外国語が中国語の場合、台湾の大学で英語を学習する。と同時に日常生活で自然に中国語が上達する。
同大学では、20年以上も前から台湾の淡江大学と提携。大学構内に麗澤学舎と名付けた国際寮を設置している。そこでは麗澤大生だけでなくヨーロッパ系や淡江大生らが住み、多文化の生活空間をつくり出している。
淡江大学で昨年10月に開催された「外国籍学生中国語スピーチコンテスト」で、英語学科の女子学生が堂々2位に入賞。クロス留学の成果が実証された。 |
時代の要請に応える
同大学では以前より学部・学科にかかわらず、国際共通語としての英語を重視。英語力を高める指導を行っている。外国語学部の学生は全員、入学早々の4月と翌年の12月にTOEICを受験。2年間でどれだけ英語力が伸びたかを検証している。英語学科は平均で130点アップ、他学科も70ないし90点も得点をアップさせている。国際経済学部においても、早い段階から経済学の原書を講読する授業が始まる。また2004年度には授業の70%を英語で進めるコースも開設された。
来年度からは「英語サロン」と、自学自習できる「CALL(Computer Assisted Language Learning)教室」が学生たちの英語力をさらに鍛える。「英語サロン」には英語のネイティヴが常駐し、学生がいつでも英語を話せる空間となる。またテーマを設定したディスカッションなども予定され、学部学科を問わず誰でも自由に参加できる。
麗澤大学では、これら充実した教育プログラムに加え、少人数制のきめ細かな指導が学生たちを大きく成長させている。
「教師との対話を通じて学生は学問の方法論を学び、自分の専門分野を見つけていきます。密度の濃い人間関係が本学の伝統です」と中山教授。
そういう中山教授も麗澤大学出身。素晴らしい先生に出会えたことが進路を決定付けたという。卒業後に上智大学の大学院へ進み、イギリス留学を経て母校に戻った。
「昔も今も教育のクォリティの高さは変わりません」。国内外で活躍している卒業生も数
多い。これからのグローバル社会で求められる国際的コミュニケーション能力。麗澤大学では豊かな人間的交わりの中で、時代の要請に応える教育が実践されている。
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