世界で活躍する先輩たちから
伝授される「今すべきこと」
新型コロナウイルスに日本中が揺れ始めた3月3日、春日部共栄高等学校の卒業式が執り行われた。
「予行練習なし、規模縮小でも、卒業生たちは生き生きと輝いていました。保護者の方々も含め『卒業式を行ってくれて、ありがとうございました』と何度言われたかわかりません。例年以上に感動的な式でした」
と、入試担当委員長・牟田泰浩先生は熱く振り返る。
今春の大学進学実績の「国公立大学合格70名」は過去最高の合格者数。「国公立大学に強い春日部」の底力を見せた。ほか早慶上理45名、GMARCH165名、医歯薬看護系120名。教育ビジョンの一つに「大学までの人ではなく大学からの人」を掲げる。宇野禎弘学校長は、「専門性を持つこと」を推奨し、世界で活躍する必須条件と語る。教員も「どこの大学に入りたいか」より「何を専門的に学びたいか」を生徒たちに徹底的に問いかけ、卒業生の「大学から、さらにその後」も見守り続ける。学校案内には所狭しと卒業生の活躍が紹介され、「我々は本当に『生徒大好き』なんです(笑)」と牟田先生が照れ笑いする。論文の受賞報告、海外大学の研究所で学びを深化している姿やリオ五輪や文化芸術界での卒業生たちの活躍の数々。こうした先輩の姿が在校生のロールモデルとなっていることは想像に難くない。
「卒業生が学校に顔を出してくれた時は、HRで生徒にも話をしてもらいます。『何のための勉強か、今はわからないと思うけれど、こういう場面で必要になってくる』と中高時代に勉強すべきことを具体的に提示してくれる。一方、別の卒業生は『中高時代は好きなことを徹底的にやれ。その道を極めるために、今やるべきことが見えてくるはずだから』と。ありがたいことです」
先輩たちの存在とアドバイスは、この困難な時代を生きる生徒たちにとって、未来を灯す拠り所となっている。
春日部共栄生の自主自律が
自然に養われた休校期間
宇野 禎弘 学校長
3月2日からの休校期間、担任と生徒はGoogle Meet で個人面談を頻繁に行い、「日課表」のコメント欄を通して交流を続けてきた。先生と生徒の距離感がすごく近い、という同校だが、「コロナ禍でもっと密になりました(笑)」と牟田先生。3月末には中学生から「もう休むことに飽きた」、高校生からは「大学受験どうなるの」という声が上がったが、中高生とも「今やれることをやるしかない」と意識を早々に切り替えていたという。
「『この状況をプラスに変えてスキルアップしよう』が教員たちの合言葉でしたが、生徒たちも『こういう機会だから今のうちに勉強をがんばる』という反応が多かったです。実際、やるべきことを見失わずに頑張っていると思います。インターハイが中止になって落ち込んでいるのは顧問の方で、部員たちは早々に気持ちを切り替えていました。生徒たちの方が強いです」
オンライン授業体制は4月半ばには整い、生徒のストレス軽減のための企画として、ピコ太郎の手洗いソングを教員たちが歌い踊る映像も配信された。「先生、観ましたよ!」と感想を伝えてくれる保護者も多く、なかには弟・妹が中学受験を控えている家庭が、休校中の学校の対応を見てきて「受験校は春日部共栄一本に絞りました」と言ってくれたとのこと。OBである牟田先生は、生徒たちを見て改めて気づかされたことがあるという。
「多くの生徒たちが、春日部共栄のことが好きです。そしてありがたいことに、教員の方を向いてくれている。早く学校に行きたい、早く部活動をやりたい、体育祭や文化祭で学校全体を盛り上げたい、受け継いだ伝統を守りたい、つなぎたい、という気持ちが非常に伝わってきます。学校生活のすべてに、本気で邁進していきたいんだ、という熱さは私が在学していた頃の春日部共栄と同じ。そういう後輩がいて頼もしい。嬉しいです」
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「中間テスト廃止」へ!
学び続けられる人に進化せよ
今年度の中学受験は、実施要領・傾向に大きな変化はないが、出題内容は小学生の学習状況を鑑み、配慮するとのこと。学校生活に「書く」場面が多いことから、記述問題は必ず出題。「一生懸命考えようとする意志、そして書こうとする力。この2つが伝わる解答であれば必ず得点できます。日々の生活のなかで意識して練習してみてください」と牟田先生。
高校受験では、マークシート形式は変わらないが、埼玉県の公立高校入試選抜の学力検査問題に準じた内容に変更する。「公立入試のために勉強してきた受験生でも、違和感なく存分に力を発揮できる問題ですので、安心して準備してください」とのこと。
そして春日部共栄は、今年度「全学年、中間テスト廃止」という新たな方向へ舵を切る。生徒に望むのは、一夜漬けの短期間の限定的な集中学習ではない「切れ目のない自学自習」だ。学習管理シート『ハイブリッド学習表』を用いて、自ら学習計画を立て、実行し、評価するという学習スタイルの確立を目指す。
「春日部独自の観点でルーブリック評価を行います。『ハイブリッド学習表』の日々の学習記録とルーブリックを、生徒自身が照合し、評価されるに相応しい行動や自主的な学習活動を自然と行えるように。自律心を育むための大転換です」
これは生徒たちの力を信用しないと踏み込めない取り組みだ。牟田先生はこう語る。
「『教師は生徒を疑うものではなく信用するものだ。そこから入らないと教育活動は始まらない』。先輩に言われた言葉を、私も後輩にことあるごとに伝えています」
「至誠一貫」――春日部共栄は、これから始まる新しい生活においても、きっと見事に体現してくれるだろう。
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