早期の進路絞込みは主体性を引き出す取り組みから
厳しい受験勉強を経て大学に合格、やがて社会に出ようとする若者がその矢先で進むべき道を見失ってしまう。現在では往々にして耳にする話だ。進路の選択は中等教育の段階から見聞を広め、広角な視野に立って行われなければ、やりたいことと進んだ道との間に“ミスマッチ”が生じるのではないか。そういった観点から、同校では生徒自身が何に関心を示し、どう取り組んでいくかを見守る「主体性の育成」を進路指導の根本に据えている。人や社会との関わりの中で将来の進路を見出す機会の提供に努め、学年に応じた効率的な進路指導体制がとられている。
主体性の育成で重要な役割を果たすのが文化祭や校外授業などの行事だ。これらを通して生徒は互いに話し合い、調査し企画を立てたりしながら自ら考え、試行錯誤を繰り返しながら目的を達成する筋道を学んでいく。その過程で創意工夫をする面白さを十分に味わうことで、生徒が本来持っている資質、活力が引き出されていく。
企業と連携した職業体験農業、漁業にも挑戦
具体的な取り組みとして、中学入学後まもなく行なわれる自然と社会の仕組みを知るためのプログラム「多摩川徒歩ラリー」がある。生徒自ら目的地を下見し、校外授業の企画を練る。ある学年は河原のごみを拾う環境活動を、別の学年は歩きながら短歌を詠むという試みであったりする。ただ漫然と連れられて行くのではなく、環境の変化、流域での人々の暮らしといった視点をもって参加するわけだ。
企業と連携した取り組みでは、中学2年からデパート、ホテル、建設業、電鉄関係、メーカーなど幅広い業種から生徒が選んだ企業で職業体験を実施。早い時期からさまざまな職業に触れ自分自身の職業観を持たせるよう導く。中学3年に行われる酪農家やリンゴ農家、漁業従事者のもとでのホームステイは、労働体験を通して作業効率や流通のしくみ、モノの値段や価値といった経済の仕組みにまで関心を寄せるようになっていく。
高校1年次からは進路に具体性を持たせるため、系列大学である武蔵工業大学でガイダンスを受け、学内の見学も行う。2年になると実際に環境情報部などから教授を招き講義を受けるなど、大学受験に対する意識付けを深める。
進路指導に関するカリキュラムの概要は、(1)社会の仕組みを知る(中学1年次)(2)職業体験を重ねる(中学2〜3年次)(3)将来への意識付けを行う(高校1年次)(4)大学を体験する(高校2年次)(5)志望大学を絞り受験指導に入る、と学年に応じて自身の将来を考えさせる内容となっている。
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理系、文系、他大学と広い進路選択に対応
学習指導では中学時には基礎学習に重きを置きながらも英語、数学で常に先取り学習を進めていく。無理なく学習の定着を図るため補習体制を整え、高校3年の1学期には教育課程の全ての履修を終える。それ以降は入試対策に特化した演習授業が行われる。英語はネイティブスピーカーの発音に慣れさせ、読解力・表現力演習を積み重ねる。数学は物事への理解、分析力を問う難関大学の入試傾向に対応するため独自テキストを作成し、少人数制授業で演習を重ねていく。高校からは英語数学で習熟度別クラスを編成する。
理科系大学の付属校である同校は、探究心に満ちた“理科好き”を育てる経験が豊富だ。身近な現象や疑問から仮説を立て、実験を行って実証し、結果や考察をまとめるといった一連の作業は主体性なしには行えない。“理科好き”を育成してきた経験は、そのまま主体性を育むための指導ノウハウとして蓄積されてきた。
極めて特徴的なのは6年間に行われる実験回数が生物、化学、物理、地学の4科目でそれぞれ20回にも及ぶ点だ。1クラスを2つに分け、それぞれの実験に2人の教諭が付くという力の入れようだ。実験を通して慎重さ、想像力、論理的思考が養われ、最終的に個々にレポートを提出することで研究の成果を会得していく。同校から理科系大学への進学者は6割以上を占めている。理系コースから系列大学へ推薦制度で進学する生徒もいるが、国公立大学の理工、医・歯・薬学系や、私立の農学部志望で他大学を受験する生徒も多い。
また、進路は年々多様化の傾向にあり、文系学部では法学部、経済学部や武蔵工業大学環境情報学部志望の生徒も増えてきている。志望校ごとに受験科目が異なることから、高校3年次での履修に選択制を採用。科目によっては10人に満たないクラスもあるが、きめの細かい進路指導を今後も続けていく考え。
多様化した進路指導により教室数の確保は切実で、併せて実験室、情報教室などの特別教室のさらなる充実を図るため今年度、新校舎と多目的ホールを備えた体育館の建て替えに着工する。来年7月に竣工の予定。工事は第1グラウンドに新校舎を建設する方法をとるため、現校舎での授業に差し障りはなく、グラウンドは隣接する第2グラウンドを使用する。
最新鋭設備を整え環境面に配慮した新校舎
41年前に現校舎が建設された際、東京都の理科実験のモデル校に指定された同校は、今回の建て替えでも理科実験室7室を確保。各教室でのプロジェクターを使用した新しい教育環境や、インターネットの常時接続など最新鋭の情報教育が整えられる。また、環境保全の観点から雨水利用や教室の採光、遮光にも工夫が凝らされており、新校舎がそのまま環境教育の“生きた教材”になりそうだ。
同校の系列大学である武蔵工業大学環境情報学部は、学校としては日本初のISO14001の認証(企業の環境活動における国際認証規格)を取得しており、環境教育では先駆け的存在といえる。中等教育部門でも優れた環境学習への取り組みが期待される。
また、体育館は地下1階に多目的ホールを兼ね備えた造りとなっており、最近活躍が目覚しいクラブ活動の練習の場としても活かされるだろう。ちなみに昨年度のクラブの活躍状況は、野球部が東京都大会ベスト16に、サッカー部(中学)は世田谷区で優勝、アメリカンフットボール部は全国大会への出場を果たしている。文化部でも吹奏楽部が東京都のコンクールで銅賞を獲得。エレクトロニクス研究部の無線の部では、全国大会準優勝を2年連続で果たしている。
クラブ活動の活動日は週3日、終了時刻も午後6時までと制限されている。だが、限られた時間のなかで好成績を残せるのは“むさこう生”として培われた主体性のなせる業なのかもしれない。
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