母親の目線で
生徒を大事に育てたい
「100年以上の歴史を持つ女子校で、初めての女性校長。そのことに気負いはないのですが、責任はとても感じています」
そう話すのは、今年の4月に就任したばかりの大野葉子校長だ。京華女子中学校・高等学校の前身である「京華高等女学校」が創設されたのは、明治42年の1909年。創立者の磯江潤氏も男性であり、これまで男性リーダーの手腕によって運営されてきた。それがこの春、女性校長が誕生。しなやかに舵取りをスタートさせた。
同校の建学の精神は「賢母教育」。「教育の完成を期するには、母となる女子をしっかり教育しなければならない」という考えに基づいている。
「どんなに忙しくてもつらくても、お母さんは子どもに対してとてもひたむき。強くなったり、優しくなったりできるのが母親です。それは今も昔も変わりませんが、100年前の女性に求められたものと今は違うと思います。女性は母親として素晴らしいだけではなく、専門的なスキルを身に付け、社会に出て働き、貢献することも求められています」
大野校長自身2人の子どもを育てながら、同校で33年間数学教師として教鞭を執ってきた。大学を卒業したばかりの新人時代は妹のような存在だった生徒が、やがて自分の子どもと同学年に。「母親の目線で見るようになってから、教育に対しての想いが新たになった」と大野校長は話す。
「生徒全員が自分の娘。この学校に来て良かったと絶対に思って卒業してほしいと思っています。今後は同性の校長ということで、生徒にも保護者のお母さんにも寄り添える『お母さんの先輩』として、経験を生かしながら、いろいろなことをお話していきたいと思っています」
今年から新しい試みとして、中学全学年で月に1回、同じお弁当を食べる日もつくった。これは保護者からの「給食はありますか」というリクエストに応えたもの。しかもこのお弁当は女子栄養大学とコラボし、栄養計算をしたスペシャルメニューなのだ。
「コンセプトは『働くお母さんの支援』と『食育に対する啓蒙』です。日々のお弁当つくりのヒントにもしていただきたいし、月に1度はお母さんの負担を減らしてあげたい。そんな思いも込めています」
これからの女性に必須
国際理解とプレゼン能力
京華女子が目指す「自らの能力を生かし、社会に貢献できる女性」。それには何が必要なのだろうか。大野校長はまず「国際理解」を挙げる。
「13〜18歳という頭のやわらかい時に海外を見せてあげたい。一番生徒に体験してもらいたいのは、日本とは違う文化もあるということです。英語圏の国だけでなく、さまざまな国の文化の違いを認めつつ、交流ができたらいいと考えています」
中学3年生のマレーシア・シンガポール海外修学旅行では、今年初めてマレーシアの私立女子中学校と交流するプログラムを行った。互いに英語でスピーチをしたり、文化交流をしたり…。帰国後もメールのやりとりなどを通して、交流してほしいと期待している。
加えて、大野校長が重要だと考えているのは「プレゼンテーション能力」だ。どんなに素晴らしい考えを持っていても、アウトプットしなければ伝わらない。「自分が考えたり、体験したりしたことをいかに表現するか。それこそが、これから求められる力だと思います」。同校では生徒が発表する機会を数多く設け、プレゼン能力アップを目指している。
同校の特色ある教育の1つに「EHD(Education for Human Development)」があるが、その中で中学2・3年生は冬休みに全員が同じテーマで論文を書く。そして全員がクラスで発表する機会を設けている。
また、学校説明会では生徒が登場。修学旅行の体験などパワーポイントを使いながら発表する。「これがとても好評で、保護者の皆さんには『京華女子に入ったら、こんなこともできるようになる』と思っていただけるようです」。 |
この学校説明会に登場するのは、「KSC」のメンバー。「KSC」とは「京華サポーターズクラブ」の略。学校が好きで、広報活動などに協力してくれる模範生チームのことだ。昨年から発足し、自分たちの学校の良さを伝えようと大活躍している。
「KSCの生徒たちは本当に素晴らしいプレゼンテーションをしてくれます。人前で発表するということはとても勉強になりますね。発表の仕方がうまくなるだけでなく、生徒自身からいろいろな意見がよく出てくるようにもなりました。生徒の成長を本当に実感しています」
成功体験の積み重ねで
行きたい大学を目指す
同校の進学指導の柱の1つは「行ける大学ではなく行きたい大学に進学する」ということ。
大野校長は「偏差値でその人が計られるわけではありませんが、最終学歴となる大学のカラーや友人関係が、その後の人生を左右することもあります。生徒には高い理想を持って、夢にチャレンジしてほしいですね」と語る。
チャレンジへのモチベーションを保つには、成功体験の積み重ねが重要だと大野校長。定期テスト対策はまさに成功体験の絶好のチャンス。きちんと勉強すれば評価されるというプロセスを積んでいくことが成功体験につながる。
「本校で早慶上智などの大学に進学した生徒は、そうしたプロセスを知っていました。先輩たちの姿も励みにしてほしいと期待しています」
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