7年間の学びを提供
「学校が変化していくことを敏感に感じ、生徒たちが『自分たちから変わるんだ』と主体的に動いてくれているのが嬉しいですね」。そう話すのは東北工業大学高等学校の久力誠校長だ。次々と学校改革を推進し、来春には校名変更という大きな節目を迎える。
同校の特色は「大学と直結した学び」。近くに東北工業大学が位置する恵まれた環境を生かし、高校の授業でも大学の施設を使用、大学のカリキュラムに直結した科目を履修する等、高・大連携で、7年間の学びを提供する意向だ。
「探究科」ではiPadを導入
中国語の授業もスタート
普通科をベースに「探究学習」をメインに掲げている「探究科」。探究企画室主任の千葉俊哉先生は、「社会に出ると、複雑に絡んだ問題を自ら考えて解決することが求められます。自分で調べて考える。これが学びの根本の姿だと考えています」と話す。すでに探究学習はスタートしており、同じ探究企画室の中里加奈子先生は「1年生の前期ではグループワークをしながら、探究する方法を学んでいきます」と話す。
後期では「水、言葉、未来」をキーワードに、各グループでテーマを決めて、自分たちで調べて、発表するところまで持っていく。
「いずれのキーワードも東日本大震災に関係しています。私たちは『水』の怖さを経験しましたが、ありがたさもよく知っています。そして『言葉』による励ましの力も強く感じました。また、あの時誰もが『未来』について考えたはずです。これから自分がどう生きていくかを忘れないためのキーワードなのです」
このキーワードから諸問題を引き出し、社会に貢献するためには、どう行動したらいいのか考えさせるのがねらいだ。
「将来、建築士になれなかったとしても、同じ建築の仕事であれば、社会貢献していることに変わりはありません。どんな職業でも社会に役立つことを探究科の学びを通して感じてほしいですね」
さらに、授業ではiPadを使用する。全国では導入が始まっている学校もあるが、宮城県ではほとんどない。全国に先駆けて最先端の端末を活用する授業が展開される。すでに今年から20台導入し、来年からは探究科全員に導入したい考えだ。
ユニークなのは、国際交流として中国語の学習が始まることだ。来年からは台湾出身の講師を招き、2、3年次の選択授業として中国語の授業をスタートさせる。今年は2年生の台湾研修旅行(3泊4日)が予定されており、53人が参加する。
担当の鈴木秀之先生は「英語の学習も大切ですが、日本はアジアの一員。近隣の国の言語を学ぶことに意味があると考えています」と話す。
「科学技術科」にデザインの要素を
「科学技術科」では、これまで電子科として括られていた内容を「メカトロニクス」「情報通信」「電力技術」の3つのコースに分割するとともに、「情報デザイン」コースを新設した。4コースは大学の学科と密接に接続、大学の先生による講義や大学の施設設備を活用した実習などが組まれる。また、3年通して学ぶ科学技術研究では、探究学習同様研究の方法をしっかり身に付ける。
デザインコースを担当する樋代(ひだい)直人先生は、現在高校で教鞭をとりながら、週4日10時間以上、東北工業大学で「情報デザイン」について学んでいる。アプリのアイコンのデザイン1つを取ってもわかるように、デザインは身近なところにあふれ、情報伝達に重要な役割を果たしている。
「科学技術の知識はもちろんですが、外部の方とコミュニケーションしながらの学習を考えています」と樋代先生。郷土料理を作っているお店に取材し、レシピ本にまとめたり、そのレシピを調理実習で作ることも考えている。生徒からも「高齢者施設のデザインを考えたらどうか」いったアイデアも出ており、手応えを感じているという。
「科学技術科」と「探究科」の1年次は共通カリキュラム。2年次に探究科に進みたい生徒は学科を変更できる。 |
国公立大を目指す「特進科」
科目横断的な授業も
トップクラスの研究者や技術者、経営者の育成を目指す「特進科」。特進対策室長の大友秀典先生は「本校の特進科の特徴は、学力をしっかりつけさせること。生徒の中には、公立高校に合格できなくて、自信をなくしている生徒もいます。それを大学合格という形で回復してあげるのも私たちの役割だと考えています」と話す。
週44単位、平日7時間授業と、トップレベルの大学を目指せるよう、学習量を確保しているが、受験のためだけに勉強しているのではない。すでに科目横断的な柔軟な授業も行っている。
7月の授業では「食の安全安心」をテーマにした。保健で食の安全全般の概要を、家庭科では食物について学ぶ。化学では食物の安全性の根拠となる知識、地理では食物はどこから運ばれるのかを学ぶ。最後に生徒は小論文を提出するというものだ。
「社会に出たとき、問題を解決するカギは、実は保健の授業にあることも、生徒には考える機会を与えたいですね」と大友先生は語る。
進路指導部長の佐々木啓充先生は、昨年、公立の仙台三高に1年間赴任。公立と私立の違いを痛感した。「転勤のある公立では、前任校での成功例をどんどん盛り込んでいくことができます。私立はそれが難しいのですが、詳細な資料をつくり、教師間で共通認識を持てるようにしたい」と話す。
校名とともに関心を引くのが制服である。新制服についても、生徒・保護者のアンケートを採りながら検討し、新しい高校スタイルを提案する制服が、7月16日(月・祝)、オープンスクールで発表予定である。
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