地に足をつけた教育を実施
改革と再生に挑んだ8年間
桜美林中学校・高等学校は、30棟近い大学施設が林立する広大な桜美林学園・町田キャンパスの一角にある。桜美林大学への進学率は10%ほどで、大多数の生徒は他大学受験に臨む。2年前に東大への現役合格者を輩出、今春は早慶上智26人、ICU・東京理科大・MARCHに168人の合格者を出している。特筆すべきは、国公立大学への過去最高21人の合格実績。前年の13人から驚異的な伸びを見せている。
「地域的に私大トップ校へ流れがちですが、国公立大に向けての進路指導は、近年ずっと行っています。ほぼ全員がセンター試験を受験、親も生徒も国公立志向へと変化しつつあります」と分析するのは、杉本きみ子中学教頭。
学校のHP上では「8年前との比較」として、進学実績の推移をつまびらかに分析報告している(表参照)。早慶上智の合格者数4倍に至るまでの8年間こそ、桜美林中学校・高等学校の大きな転換期だった。
8年前に就任した現校長の本田栄一氏が推し進めたのは、「授業改革」。教職員には「授業がすべて」と意識改革に努めた。生徒回答による「授業アンケート」の評価で、常に緊張感を保ちながら、板書の仕方、声の出し方から研鑽を重ねた。
「"学ぶ意義"を教員も生徒も問い続けながら、地に足を付けた教育を行っていること、地道に努力している生徒の姿を、外部へきちんと伝えたい」と杉本教頭は自信を見せた。
進路指導部と学習指導部
フィードバックで研鑽を
改革以前から、長い試行錯誤を重ね、精錬・完成させてきたのが、高等学校の「進路指導部」と、中学校の「学習指導部」の連携だ。担任を持たず、指導専門に特化した教員を各部署に置く。
中学校の「学習指導部」は、テスト結果をもとに、3年間にわたる成績変遷や活動の様子を生徒の個人データにまとめ、フォーマットを改善させながら管理する。そこから浮かび上がる高校での課題を、個人と学年傾向に分けて高校へ伝える。
「大きな変化としては、中3の学年担任が順繰りに行ってきた管理業務が、学習指導部に一元化されたことです」と語るのは、学習指導部の担当者。全生徒分のデータの一元管理は、膨大な量だが、仕事はそれのみではない。高校の進路指導部から、中学校の学習指導部へも要望や要請が入ってくる。
「合格実績を逆算して割り出された『中学段階で身に付けたい学力』が明確化されたことで、中学の教科指導にもプレッシャーがかかります。学年・教科ごとの達成基準に向けて、各教科主任に指導を行います。また、勉強合宿や特別クラスを設定するなど『補強』を企画するのも指導部の役目です」と学習指導部担当者は、仲介役の難しさと醍醐味の両面を声色ににじませた。
「中高の指導部が主導して、担任たちと面談を行い、生徒の学習・進路指導へとつなげていきます。毎年刻々変わる大学受験情勢と、生徒個人の特性を熟知した指導部のプロフエッショナルによる、ブレのない進路・学習指導の結果が近年の合格実績です。特に中学入学の内進生は、難関大学合格率を占めています」と杉本教頭は、笑顔で付け加えた。
3年後の飛躍の土台を作る
基礎力と思考力と自学自習
今春の中学入試は1,603人の受験生を集めた。4年目となる午後入試は、上位校をねらう受験生の併願校として、評価が定着している。高校からの入学者と内進生は、高校1年次は別クラス、2年次から合流し、理系・文系に分かれる。高3では午前は授業、午後は志望に合わせた自由選択の受験講座となり、受験準備に入る。
近年の保護者は、落ち着いていて観点が鋭い、と杉本教頭。毎朝の英語テストは、保護者の意見から生まれた。
「保護者からは適切な意見が寄せられます。『皆で一緒に学校を変えていこう』という意識がとても高いです」
中学校の指導のねらいは"基礎学力の定着""自学自習の確立"。昨年から導入した『学習の歩み』は、テスト勉強計画・結果・検証を生徒自身が1年間書きこむ冊子。学習の仕方を振り返る、生徒自身による個人データだ。
一方"伝統の学び"のシステムも継続している。創立者が考案した英・数・国の「コンテスト」は、計算力・語彙力の定着を測る年5回のテスト。成績優秀者は表彰される。また自由研究を発表する冊子『探究心』も伝統のひとつ。生徒が自ら選んだテーマを、理社の教員が資料の探し方・扱い方、「導入・展開・帰結」の論文の書き方まで、徹底指導してサポートする。夏休み中、実験室にこもり、研究に没頭する生徒も。夏休みの宿題も含め、「最後までやらせる」のが桜美林の流儀だ。
「基礎学力」「考える力」「努力の大切さ」。桜美林の源流は、変化と伝統の中に息づいている。杉本教頭は語る。
「自分の道を探す土台となる力を、中学時代にきちんと身に付けること。それが大学進学のときに、大きな力を発揮するのです」 |