2007年に共学化、2年後には東京一の受験者数を記録、4年間で高校の偏差値20アップ、今春は国公立大に現役合格14人など、驚異的躍進を続けている広尾学園中学校・高等学校。同校の3つのサイエンス・ラボは、DNA操作や細胞培養を行える最新機器を備える。理系教育に力を入れる同校が生み出した、究極のアカデミック・コースが「医進・サイエンス(IS)コース」だ。今春、高校に新設、第1期生を迎えた。初年度の反響の高さを広報部長はこう分析する。
「医療や研究を目指すための環境が、こんなにも求められているのかと驚きました」
内進生・高校入学生ともに目的意識の高い意欲的な生徒が集結。そんな手強い生徒たちを迎える先鋭の担当教員たちも気概と情熱は充分で、その思いは普段の授業にも大いに反映されている。
ISコースは一般的な医大進学予備校とは全く別物。大学合格のその先、医療や研究の現場を意識した教育活動が展開されている。1年次カリキュラムに組み込まれた「研究活動」はISコースの真髄だ。活動は放課後と土曜日。教員たちの専門分野から6カテゴリを設定、生徒はその中からテーマを選び、チームに分かれて研究する。テーマは幹細胞、再生、遺伝子機能解析、植物栄養、素粒子物理、宇宙論、数論、現象数理、光触媒など本格的。将来的に、学内での発表はもちろん、学会などを通じて学外へ成果発表することを目指している。
「まず、テーマを決めるのが、研究活動で極めて大事な作業。ある分野で新しいことを成し遂げるためには、その分野について熟知していなければなりません。そこから課題を見出し、解決策を模索することで、本物の"課題解決型"の志向を養えると期待しています」
世界中の研究の最先端を生徒と共に学ぶ。既知の知識を教科書を使って教えることとは全く違う。教員へかかるプレッシャーも当然、大きい。
「高校教育界の中でも先駆者であるという自負が教員たちを奮起させています。生徒たちのポテンシャルの高さを実感している一方、彼らが学ぶことの意味を大学受験にのみ求めがちだという現実。本物の研究体験を通して、論理的思考を身に付けることは、受験においても一番の武器になるはずなんです」
同校の熱意が賛同を呼び、大学や企業などからの機材提供協力も盛んだ。中高大連携のキャリア教育の一環として、各界の最先端で活躍する研究者による講座を多く設けてきた。「広学サイエンス講座」で招いた研究者たちと教員たちが結んだコネクションが、高レベルの研究環境を可能にした。
6月現在、1年生は研究テーマ決定に向けて、基礎知識を身に付けながら、最先端の研究成果を調査している。集めた情報は、週1回の進捗報告会で報告し、教員やクラスメイトから厳しいダメ出しを受けている。それは内容の精錬とプレゼンテーション技術を磨き合う大切な時間だ。 |
1年次カリキュラムでは、物理・化学・生物を行い、国語4単位に加えて、論文指導に特化した「国語表現」を履修。「情報C」のレベルの高さには舌を巻く。玉石混交のウェブ上の情報の中から信用できる基準として査読を通った科学論文の価値を伝えている。全員がiPadを常に持ち、PubMed(世界最大級の医学・生命科学文献データベース)などを用いて情報を収集している。「英語」では科学論文を積極的に引用、必要な情報を手に入れるためにも、英語を学ぶ必要性があることを認識する。「社会」では医学史や倫理問題にも触れる予定だ。かくして全教科が「医学・科学」にリンクした内容でサポートしている。
「科学の可能性を追求することはもちろんですが、生命倫理の問題など、今後、考え続けなければならないことにも向き合ってほしいと考えています。私たち人類が進むべき方向を決めるのは彼らの世代ですから」
"本物"や"現場"に触れながら、ISコースの生徒たちは医師や研究者のマインドを身に付けていく。
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