現場感覚を生かし
リーダーシップ発揮
校門に向かって歩いていくと、校舎壁面に「東大合格」を祝う垂れ幕が目を引いてくる。共栄学園中学校・高等学校には地域の住民からも賞賛の声が届くようになった。8年前、女子校から共学校となったが、今ではバドミントン、少林寺拳法などクラブ活動でも男子の活躍が目立ち始め、すっかり共学校としてのイメージが定着、改革の成果を見せている。
今春、校長に就任した石田圭氏は、34年前、同校に体育教員として着任し、以来6年間の中学校教頭職を経て現職となる。いわば生え抜きの校長である。ここ10年の改革の実践役であり、同時に、今後の改革においてリーダーシップを発揮していく力強さを感じさせる人である。
そんな石田校長が第一に語った抱負は、「文武両道を鮮明に打ち出していく」というもの。補足すると、学校として文武両道を目指すのではなく、一人ひとりの生徒が文武両道であることを追求しようというのだ。進学実績をあげ、部活でも全国レベルの優秀な成績を誇る学校は少なくない。だが、石田校長がいうところの文武両道は、学力と体力の両面において優れている生徒の育成である。実際、部活や生徒会活動など、課外活動に積極的に参加する生徒は、学習への集中力が養われ、時間の活用も巧みであることが多く、共栄学園の教育方針は理にかなった生徒像といえそうだ。
石田校長は現場主義を重視し、週に1コマ中学2年生の授業を受け持っているほか、女子バスケットボール部の監督も務める。「校長であり、教員であるというのが、私のスタンスです」と、現場主義。
一方で、管理職として早速、組織改革にも乗り出している。これまで中高の6年間を前・中・後期の3期に分け、各期それぞれ責任者を置いてきたが、石田校長は就任後このシステムを変えた。学年ごとに主任、副主任を置いて、組織系統を細分化したのだ。ねらいは責任の所在をより明らかにするためという。
同時に、現在の共栄学園に必要として、@独自学習プログラム、Aコミュニケーション能力の育成、B知・徳・体のバランス教育の3本柱を設定した。独自学習プログラムは、すでに放課後の校内塾として実施。コミュニケーション能力の育成では、まず、生徒のみならず、教員も含め、メールを使わず言葉で伝える関係性を奨励している。知・徳・体のバランス教育では、これまで生徒に理解されにくかった「徳」について、スポーツ競技の中でフェアプレイ精神として浸透させていくなど、その手法にはやはり現場感覚が生きている。
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東大合格者輩出が刺激
難関受験対策に人材育成
今春、東大に合格した生徒の担任を3年間務めた佐久間賢一教諭にお話を伺った。「一言でいうと、性格は負けず嫌い。芯のある生徒で、周囲からは一目置かれる存在」と評されるAさんは、特進コースの選抜クラスに在籍し、1年生の頃から学力の高さは目立っていた。が、本人はバスケットボール部に所属し、練習がハードなうえに勉強のための時間が十分に取れないことから、最初から東大を目指していたわけではないという。佐久間教諭が東大受験を視野に入れるよう勧めたところ、2年生の秋頃からようやく本気で東大を目指すようになった。
その後は同校で教育顧問を務める、精神科医で受験アドバイザーの和田秀樹氏の助言のもと、「緑鉄会」の講習を受け始めた。併せて、現役東大生に具体的な勉強法のアドバイスも受けるなど、本格的に東大受験に絞った指導を受けるようになる。
ただ、一般に受験生は本気になればなるほど、同時に不安を併せ持つようになるもの。Aさんも佐久間教諭に「休み時間や放課後にも勉強できる環境を整えてほしい」と訴えたこともあったという。Aさんは受験の年、センター試験で思うように得点できず、一浪するが、翌年、東大1本に絞って受験、合格を果たした。
佐久間教諭曰く「受験で最後にものをいうのは体力と気力」。体力はスポーツで養うことができるが、気力は成功体験を重ねることで鍛えられていく。そういう意味で、部活動を奨励し「活力あふれる進学校」を推し進めることは理想的とも。
今春は横浜国立、千葉、埼玉、早稲田、慶応、上智、東京理科など、難関大への合格者も過去最高をマークした。学校全体でみると2005年に136人だった大学合格者数は、2010年に487人と約3倍に達し、教員の気質にも変化が見られるようになった。
特に近年は、東大、東工大、東京理科大、都立大、早稲田出身のやる気ある若手教員を採用してきたが、これらの教員が中心となって今後、東大受験のための問題研究をしていく必要があると佐久間先生。難関大の受験校として人材育成を進めていきたい思いを語った。
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