25年後は43歳その時、どうありたいか
実践女子学園では新たな女子教育の前提として、女性がこれからの社会で担う役割に着目している。女性の社会参加がさらに進む中、責任ある立場で活躍するシーンも増えてくるだろう。こうした高いレベルでの社会参加を可能にする人材育成を同校は目指している。具体的にイメージさせるのは「25年後の私」だ。
「日本社会は、女性に有利な方向に移行すると考えています。現在、企業でも産休・育児制度を拡充するなど、就業支援を導入しています。高いスキルを持って働いていた女性が、結婚・出産・転勤などで離職した後、パートタイマーの雇用しかないようなことは許されない。そんな時代がくると思います」。そう語るのは松田由紀子校長。
「卒業生が18歳とすると、25年後は43歳。今の新入生のお母さまと同じくらいの年齢です。高いスキルを持っていれば、子育てが一段落した後でもキャリアを継続している人と同等の就業が可能になる。そうありたいと願っています。また、就労でなくても、NPOや地域活動でも女性は必要とされるはずです。25年後に自分がどうありたいか。生徒には中高の時期からしっかりとした職業観を持ち、ライフデザインを描いてほしいと思っています」
同校ではそのために、「キャリア教育」「感情表現教育」「国際交流教育」に学力改革をプラスした「3プラス1」の教育方針を打ち立てている。
「キャリア学習」では、まず中1で「自分史」を書く。かけがえのない自分を認識するためだ。また調べ学習の一環として、自分の父親がどんな職業を選んだのか、そのためにどの大学に行き、どんな資格を取ったのかも学ぶ。実際に職場を見学させてもらうこともある。
さらに進むと、自分が興味を持った現代社会の問題についても作文を書く。後期高齢者医療の問題を取り上げた生徒もいるという。
キャリア教育の成果は大学進学にも変化を与えた。現役かつ一般受験で進学を決める生徒が増え、しかも、医療系・理工系の進出が顕著になっている。生徒が自分の意志をしっかりと持ち、進路を決めていることがうかがえる。
異文化共生の国際交流
GSCの入学者も増
同校の「国際交流教育」の目的は英語の修得だけではない。「異文化共生」が大きなテーマだ。短期交換留学としてイギリスの他にタイ、中国、ドイツという英語圏以外の高校で学び、ホームステイをしながら、価値観の違う文化を学んでいく。高い語学力を育成しつつ、他国の文化への理解を深めていく。そのプロセスは、留学した生徒が国際交流ニュースとして、現地の生活ぶりやその国の文化についてリポートとして発表している。
「それを読んだ下級生が、留学を希望したり、交換留学でやってきた外国の生徒のサポーターになりたいと手を挙げてくれています」と松田校長。
また、昨年からスタートした国際学級(GSC:グローバルスタディーズクラス)は、今年は定員を超える41人が入学。国内外の難関大学に進学できる資質と能力を育て、英語だけでなく中国語のコミュニケーションも目指すこのクラスは、帰国子女以外にも高い人気を誇っている。
「感性表現教育」では芸術鑑賞だけに留まらず、自国の文化や伝統を身に付けることが必須と、華道・茶道・箏曲・仕舞・和装着付けのいずれかを、中1生全員が学ぶ。他にも自然体験教室では田植えも体験する。
「最初は田植えを嫌がっていた生徒も、『田んぼに足を入れたら音が鳴った』『これからは絶対にご飯を残さない』『おたまじゃくしなどの生物がいる環境こそ、安全なコメづくりができると実感した』などと、たくさんの感想を残してくれました。本校では俳句の授業もありますが、今年の田植えの俳句はリアリティーがあり、例年よりはるかに完成度が高かったです」と松田校長は目を細める。
これら3つの柱に加えて、学力改革も実施している同校。しかし、それは学力偏重主義ではないと松田校長は語る。
「高い学力はもちろんですが、人間として基本的な素養がなければ社会に通用しません。本校が取り組んでいるのは、生徒が目指すキャリアを実現するための学力であり、単に有名大学への進学率を上げることが目的ではありません」
高いハードルの大学を目指すのは、あくまでも将来の夢を実現させるためのもの。そうした意識が、さらに学習意欲を高める原動力にもなっている |
良妻賢母のイメージ刷新
校外の活動にも積極的に
こうした教育方針の成果は早くも表れている。松田校長は「主体性が引き出され、積極的にチャレンジする生徒が増えてきました。どんどん学校の外に活動の場が広がっています」と話す。
例えば、校内で行われていた朗読会は、青山のこどもの城での幼児向け絵本の読み語りにつながった。また、外部のシンポジウムの募集などに生徒が積極的に応募。メンバーに選ばれることも増えてきた。
昨年は「ヤングアメリカンズ」という、音楽公演と教育活動を行っているアメリカの団体の公演に、同校の生徒も参加。他校の生徒と一緒にひとつのステージを作り上げた。「本校の生徒が積極的に前に出て踊っている姿をみて、本当に嬉しくなりました」と松田校長。
「実践女子学園は良妻賢母のイメージがありますが、それが明らかに変わってきています。豊かな感性を育み、どんなことにも取り組んでいく姿勢が生まれつつあると思います」
21世紀の女性教育は、実践女子学園がリードしていきそうだ。
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