高まるGSCへの期待
「地球規模の人材育成」を謳い、今春から導入されたグローバルスタディーズクラス(GSC)。帰国子女を想定したハイレベルな英語、ニーズが高まる中国語、そして華道、茶道、筝曲など日本伝統文化の修養をカリキュラムに取り入れた国際学級が、1年目にしてすでに注目度は十分だ。35名の募集に対し96人が受験したことに、松田由紀子校長は「すでに帰国子女教育において実績ある私学と同等の評価をいただいたのではないか」と順調な滑り出しを歓迎している。
GSC導入を発表した当初から、学校説明会などの場では高い関心が示され、海外赴任経験のない家庭からも質問や問い合わせが多く寄せられた。GSCは英語力を伸ばして国内の難関大合格を目指すというよりは、リベラル・アーツ系大学への留学をサポートする側面が強い。この点からしても一歩踏み出した国際感覚を身に付けさせたいという保護者のニーズは、もはや一部のものではないようだ。こうした状況を受け松田校長は、コンセプトは同様に、対象を帰国子女だけに限定しない“もう一つのGSC”を模索していきたいとしている。
さて、GSCの授業の特色は、国、数、英の3教科が中1段階から中3まですべて習熟度別授業となっている。国語と数学は週5時間の単位数で2グループに分かれ、英語は週7時間で3グループに分かれ、いずれも極めて少人数制による授業が実施される。
中国語の履修は週2時間だが、NHK中国語講座の講師が担当し、上海の大学付属高校との間には交換留学制度もあり、6年間で中国語に触れる機会は少なくない。「英語だけでなく中国語の児童書も豊富に取り揃えている」と、松田校長は意気込みを見せる。
海外生活で実感させられるのが、当地での日本文化への関心の高さだという。帰国子女が再び海外で学び、あるいは活躍する日が訪れるにしても、中高の6年間は日本の伝統文化に触れ、多くを感じ取る貴重な時間である。日本文化の実習では華道や茶道など日本の伝統文化に親しみ、身に付けるカリキュラムが毎週用意され、GSC以外のスタンダード実践クラス(SJC)の生徒とともに受講している。
留学を希望する生徒には、高2進級時より英語によるディベートと長文エッセイが書けるレベルにまで留学教育を本格化させていく。また、国内大学への進学希望者には同時期からSJCの生徒とクラスを編成し、選択科目履修に重点を置いた学習に移行する。
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日常的な感性・表現教育が
五感を研ぎ、判断力を養う
創立時からの伝統を受け継ぎ、国際交流教育に力を注ぐ同校は、中国とタイの中高一貫校と提携し、毎年生徒を派遣するとともに留学生の受け入れにも積極的だ。最近はベルリン、ロンドンの学校とも交換留学制度を設けるなど交流教育の充実を図っている。
また、5年前からキャリア教育部を立ち上げ、発達段階に応じ、進路・職業観のデザインから職業体験や企業連携プログラムを実践してきた。今春、キャリア教育を受けた第1期生が卒業を迎えたが、その進学状況に教育成果が如実に出ている。医療系、理工系、国際関係系といったスペシャリストを目指した進学が軒並み前年度を大きく上回っているのだ。
国際交流教育の充実とキャリア教育の成果が出たところで、今春から新たに取り組み始めたのが「感性・表現教育」だ。松田校長曰く「現在の中高生にかかわる課題は何かという発想がもとになっている。中高一貫校を受験した生徒の多くは、受験を優先し、本来その年代で経験するはずだった家族内の葛藤や自然体験などを未経験なまま入学してくる。これらを取り戻させたい」と導入の意義を話した。
実際にはこれまで行事やイベントとして取り入れられてきた芸術に親しむ機会を日常的といえる頻度に増やし、そのことによって五感を研ぎ澄まし、ひいては自分の目でしっかり物事を見極め、判断力を養っていくというねらいがある。そのため火曜の午後の空き時間にプロの演奏家を招いたり、演劇、合唱、筝曲部などのクラブの発表を生徒同士が鑑賞し合うなどの実践が始まっている。
これら国際交流教育、キャリア教育、感性・表現教育を3つの柱に据えた女子教育が、今後、同校の教育原則として広がりを見せていくとみられる。
松田校長就任から5年。さまざまな取り組みで着実な改革成果が見られるようになったが、同校が受験生やその保護者から信頼を獲得していると思われる要因をもう一点挙げておきたい。それは「都合の悪いことを隠さない」姿勢だ。学校説明会などで学校に寄せられた苦情や対処方法、今後に向けた改善法や課題などを松田校長は公表している。社会は問題が一切起こらないことよりも、問題を公表し、解決しようとする姿勢に信頼を寄せることを松田校長は知っているのである。「現状を認識していただいたうえで、課題を解決することで信頼につなげたい」と。そこには情報公開制度による学校情報の公開が当たり前という公立学校での松田校長の経験がある。
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