課題克服が新たな授業形態を生む
浄土真宗を開いた親鸞聖人の教えをもとに、「明るい挨拶、美しい言葉、すっきりした知性」を教育目標に日々実践を重ねる千代田女学園中学校・高等学校は、創立から今年で120年を迎えた。その校史の中で、卒業生の現役大学合格率が今年80%を超え、ここ数年低迷していた中学校の入学者数も3年前の2.3倍に増えている。都内小学6年生の数が前年比2%減という状況の中で、着実な改革を積み重ねている結果といえる。
昨年就任した菅原俊軌校長は「一番の課題は生徒募集です。ここ3年、中学校の生徒数は徐々に増えてはきましたが、各学年の生徒数が100人程度になるよう、千代田女学園の実践を広く知ってもらいたい」と話す。
中高一貫体制を数ある私立中学校に先駆け、整えてきた同校は、体制のメリットとデメリットを冷静に見つめてきた先駆者でもある。昨今は、一般に中学校でも特色あるコースやクラスが設定されているが、このことには学習目標を明確に定め、特化したカリキュラムによる効率的学習が行える一方で、いったんコースを決めてしまうと限られた人間関係の中で葛藤を生んだり、グレードの高いコースへ籍を置くと同時にそれまでは無縁だった劣等感、挫折感を抱く生徒も少なくない。中学生という発達段階においては、それらがより顕著に現れるのである
こうした人間関係の固定化や挫折感を克服するには、コースやクラスの枠を取り払えばよいが、それでは目標や習熟度に応じた効率的学習が阻害されるというジレンマを抱えることになる。この問題を解決し、かつ、中学校の学習内容をさらに深める仕組みはないものか。菅原校長はその打開策を見出し、新たな仕組みとして、今春から中学校に導入したのである。
新しい仕組みセレクト・プログレス
新しい仕組みはセレクト・プログレス(SP)と名付けられ、その名の通り、よりすぐりの発展的学習を受講するシステム。国公立、難関私大への合格を目指す生徒が、英語と数学を中心に、通常クラスとは別にハイレベルな授業、講習を受けるが、それ以外の授業は通常クラスで受講し、教科外活動ではホームルームに戻るというもの。
具体的には、英語・数学のハイレベル授業、講習、夏期特別講習、数学特別講習、英検・数検講習、理科実験講座といったメニューが用意されている。SPの授業を受講した生徒は、進学時には高校の特進コースに進むことになっている。
一方、SPの授業を受講しない生徒は、基礎学力をしっかり養い、系列大学である武蔵野大学を含む私立大学への進学を目指す。このカテゴリーはスーパー・スタンダード(SS)と名付けられ、授業内容も先取り学習よりは、中学校学習指導要領の範囲を、特に英語と数学を中心に入念な復習に時間を使うのが特徴。
「中学校段階でコース制を導入し、進路を文系か理系かに固定し、高校の学習内容を先取りすることは、生徒にとってデメリットではないかと考えました。それよりは中学の数学と英語の基礎力を十分につけ、人格形成面でのフォローアップを大切にしたいのです」とSS設定の意義を語る菅原校長。英語と数学以外の授業とホームルームはSPとSSが混合するため、固定的人間関係は解消され、中学校学習内容の深い理解への期待ができる仕組みだ。
菅原校長はSSとSPの導入について「中学生活を伸び伸びと送らせ、進学は中堅大学へと考える保護者も少なからずいますし、先日開催した塾対象学校説明会のアンケートでもSSについて詳しく説明を求める声が多かったのです。一方で、難関大合格を目標とする生徒のニーズにも応えていかなくてはなりません」と話し、今や先取りやハイグレード授業だけがニーズという風潮は以前に比べ、少なくなってきていると感じているようだ。
そうしたニーズは、少子化によって中堅大学への進学が比較的容易になったこと、企業が採用の際に最重要視する観点が知的観点だけでなく、コミュニケーション能力をはじめとする人物のパーソナリティーという観点にシフトしつつあることが要因ではと菅原校長は分析する。「社会では学問があってポジショニングに恵まれていても、生きることに難儀している人がいます。その逆に、厳しい状況にもかかわらず、生活を楽しめる人もいます。後者は生涯偏差値が高い人で、そういう力の大切さを社会が切実に意識し始めたのかもしれません」とも。中学発達段階において、学力と人格形成面を急がず着実に積み上げることの重要性を強調した。
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