自由度の幅を広げた進学制度
緑あふれる広いキャンパスには幼稚園から大学院までが揃い、恵まれた教育環境が整えられている。昭和高等学校の卒業生のうち、併設の昭和女子大学に内部進学するのはおよそ6割ほどという。
「数年前まで内部進学率は85〜90%でした」。
そう話すのは中高部の小西泰教頭。2004年度に教育改革を実施し、そのひとつとして「昭和女子大への学校長推薦を得たままで他大学を受験・進学できる」制度を導入した。それ以降、国公立大や早慶上智など難関私大にチャレンジする生徒が増えてきている。
一方、内部進学を希望する生徒には、附属校のメリットを生かした「五修生制度」が用意されている。これは26年前から導入されている制度で、高校3年に在籍しながら昭和女子大の授業を受けられるというもの。大学で5年間じっくり学ぶことも、大学の早期卒業制度を利用して、4年で卒業することも可能だ。現高校3年生では、190人のうち約30人が五修生制度を利用して、一足早く大学生活を送っている。
コース制をとらず、生徒一人ひとりに対応
2004年度に教育改革をスタートさせた同校は、2005年度より3年間文部科学省の「スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール」の研究開発指定を受けた。また国語教育においても、2005年度から2年間「国語力向上モデル事業」の指定を受けるなど、教育内容の充実ぶりがうかがえる。
今年度からは新カリキュラムを実施し、週6日制へ移行した。新カリキュラムの中でも特に力を入れているのは、英語と数学である。他大学進学を希望する生徒が増えてきていることから、外部受験に十分に対応できる力をつけたい考えだ。
ただし、特進や理系文系というようなコース制はとらない。同じ理系であっても進路目標によって必要な科目が異なるからだ。同校では従来より、生徒一人ひとりに対応したアラカルト方式の選択科目を用意してきた。新カリキュラムにおいても同様の方法が採用されている。そのため、なかには受講する生徒が2人とか3人の講座もあるという。
小西教頭もかつて数学で生徒2人だけの講座を担当したことがある。ところが途中で、昭和女子大学に生徒たちの希望する学科が開設され、外部受験の必要がなくなった。「受験対策から身近な問題に直結した『楽しい数学』に切り替えたところ、予想以上に数学の力がつきました」と笑顔で話す。
英語学習へのモチベーションアップ
新カリキュラムにおいて英語に重点が置かれているのは、生徒たちの英語力が伸びてきた結果でもある。
3年前にスタートした中学校の「ザ・ボストン・ミッション」が英語学習へのモチベーションを大いに高めた。これは中学2年の3月に12日間、アメリカにある同学園の「昭和ボストン」キャンパスで学ぶ海外研修を軸に、中学3年間を通して実施される英語教育プログラムである。
中学1年から事前準備を始め、中学2年では各自が現地で何を研究するかを決め、具体的な準備を進める。
例えば、スクールライフをテーマに選んだ生徒は、現地の中学生と交流し、昼食には何を食べているかなど、学校生活の様子をインタビューした。またコンシューマーライフを選んだ生徒は、スーパーマーケットで買い物客や店員にインタビューしたり、陳列棚にどのような商品が並んでいるかを調べた。いずれもグループではなく、1人で行わなければならない。帰国後は英語でレポートをまとめて、皆の前で発表する。
今年の研修を引率した入試部の柴田芳明部長は、「思っていることを英語にできないもどかしさと、通じたときの喜びが、学習へのいい動機づけになっています」と話す。
実際に、外部の英語スピーチコンテストの出場者を募集したところ、従来の何倍もの生徒が名乗りを上げたため、初めてオーディションを行ったという。
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理想試験は昭和の誇り
2004年度の改革以降、同校への志願者数は大幅に増加。入学者の偏差値は15ポイントも上昇した。
しかし、小西教頭は「入学者の志向はそれほど変わっていない」という。それは、大学附属であるという安心感と同校ならではの伝統的「全人教育」への期待である。
小西教頭はさらに「本校が最も大事にしているのが、人間教育の場である『学寮研修』です」と言い切る。
全生徒が毎年、学年ごとに足柄の「東明学林」や館山の「望秀海浜学寮」で5泊6日の共同生活を送る。
午前中は通常授業、午後からは自然の中での体験学習。足柄では茶摘みや森林散策、館山では地引き網や2キロの遠泳など、変化に富んだプログラムが用意されている。なかでも高校1年で体験する遠泳は、もっとも思い出深い体験だ。皆と一緒に泳ぎ切った感動は、いつまでも色あせない。
「5泊6日となると、わがままが出てきてぶつかり合うこともありますが、そこから本当の人間対人間の付き合いが始まります」。
人と人とが真剣に向き合うところから信頼関係は生まれる。そこには生徒同士だけでなく先生も含まれる。
「だから、本校の定期試験では試験監督はいません」。生徒たちはカンニングするくらいなら零点をとったほうがよいと考えている。これが50年以上前から受け継がれている伝統の「理想試験」だ。ここに同校の教育に対する自信と誇りが表れている。
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