建築の粋を集めた新校舎12月完成
東京駒込の緑豊かで閑静な住宅街に立地する女子聖学院中学校は、校内にも木々が多く、季節の花々は訪れる者の目を楽しませてくれる。キリスト教を建学の精神とし、女子教育一筋に100余年の歴史を刻んできた同校だが、時代のニーズに応える教育体制の整備にも取り組んでいるところである。古くから受け継がれてきた校風を変わらず守り抜く姿勢と、必要な見直し、求められる環境には柔軟に対応する、いわば不易流行の学校運営を実践中だ。
今回紹介する新校舎建設は、そのうち「流行」に当たるもの。建設目的は少人数体制の実現であり、ひいては学力向上と人間教育の充実を一層に求めたところにある。建築仕様の面でも構想から着工まで3年をかけ、十分な耐震強度とシックハウス対策、省エネの観点から議論し尽くした結果の新校舎である。
全体的に自然の力を利用するよう設計されているが、中でもよく考えられているのは、窓のサッシに取り付けられた細いフィンである。このフィンの傾斜により、生徒は外の風景が見えるが、直射日光は遮り、さらに教室内を明るくする効果もあるため、同校校長補佐の城築昭雄先生は「光熱費のランニングコストが低く抑えられる」と省エネ効果を喜ぶ。さらに、空気の流れをうまく利用することによって、自然換気ができるという心地よい空調システムを実現している。
もともと、強固な地盤にある同校だが、新校舎の耐震性で、一層の安心感が得られそうだ。万一、地震や台風などによって窓が割れた場合でも、ガラスや落下物が当たらないように設計されているのも、安全性をシビアに追求した結果といえる。
校舎内に目を向けると、床、机、椅子、ロッカーの扉はすべて天然木材を使用している。そのため、四季を通じて湿度調節を自然に行い、吸音効果もあるという。
地上5階、地下1階のシンプルな校舎は、全体として災害時の避難経路もわかりやすく、万一、不審者の侵入があったとしても、目立ちやすい構造となっている。校舎1階には400名収容の小チャペル・クローソンホールが配置され、さらにその地下には200名収容の多目的ホールが造られる。「集会やクラブ活動に重宝するでしょう」と城築先生。
ちなみに建設費は、そのほとんどが寄付によるものという。卒業生や在校生による「1,000円募金」にも多くの協力があり、母校である女子聖学院を支えようとする思いが伝わってくる。
社会へ目を向ける
人間教育プログラム
中学高校時代は心身ともに大きな成長を遂げるだけに、さまざまな悩みや、問題に直面する時期でもある。同校では日常的に聖書に触れ、その言葉の中から豊かな心を育む実践が行われているが、近年はコミュニケーション不足による人間関係の希薄さや、特定の相手に対する中傷などによって、安易な結束を図ろうとする弱さも見られるようだ。
同校では中学1年の7月に、キリスト教に基づく教育プログラム「軽井沢生活」を、すでに50年前から実施してきた。これは旧軽井沢のセミナーハウスを利用し、クラス単位で2泊3日の日程で行われる自己を見つめるための合宿である。テーマは「自己を見つめる――神様が私たちに望んでおられること」である。最初に、自分自身はどういう性格、個性の持ち主で、どのような能力が与えられているのかというキリスト教でいうところの「賜物」を見つめ、その「賜物」をさらに磨くために必要なことは何かを学ぶのである。
次に友人の「賜物」を探すことで、その長所に気づいて互いに良いところを認め合う人間関係を構築するよう指導がなされる。
最後に、クラスが気持ちよく生活する場となるように、互いに気をつけるべきことを話し合い、「クラス憲法」を制定し、3日間のスケジュールを終了する。全体を通して、違いのあるもの同士がともに生きる喜びを味わうことを目指す、キリスト教を土台とした道徳教育である。
この合宿を経験する意味は大きく、9月以降の学校生活で、仮に問題が起きたとしても、「軽井沢に立ち返る」ことで、クラス全体で乗り越えていけるのだという。
また一般に、ミッションスクールでは奉仕活動を通して、社会を知り、社会に溶け込み、社会から得るものの大きさを実感する教育が行われているが、同校での奉仕活動には30年以上も続いている「介助タオル作り」がある。全校生徒が介助用として適したタオルやオムツを手作りし、出来上がったものを施設に寄付する事業で、毎年、春、秋の2回行っているもの。
こうした人間教育プログラムは、社会に自分を活かしていく姿勢を養い、自然に社会に目を向けさせることから、やがて職業観への目覚めにも結びつき、自分の進路を決定する上で少なからず影響を及ぼすとみられる。そういう点から見れば、まさに総合的学習効果が期待できる取り組みといえる。 |
教科指導のさらなる検討
教科学習での取り組みとしては、習熟度別の授業(クラスではない)を実施することで、確実な学力の定着を図ってきた。来年度以降、高等学校では、その効果をさらに上げるため、分割・少人数授業が検討されている。
放課後の学習環境を充実させるため、卒業生によるチューター制の学習支援体制も検討中である。これまでも生徒の理解状況によっては指名補習を実施してきたが、さらに積極的な展開が期待される。また、新校舎には「進路自習室」を設け、特に受験前の特別講習などに活用されるという。
城築先生は「これまで、授業は教師の個々の裁量に任されてきたが、今後見直しの必要がある」と、本格的な評価制導入にも含みを持たせた。教師からは制度を導入するからには、どういう形で検証するのかといった意見も出され、真摯かつ積極的に受け止めるという。今年10月からは授業公開制が導入され、校内の教師からはもちろん、外部教師の授業からも吸収できる仕組みも模索していく。
新校舎はそもそも少人数制を目的として、授業教室を多くとった設計となっていることから、同校の教科学習、選択性授業などで見直し、改善がなされるだろう。いわば改革に備えた校舎の建て替えであり、受験生の期待はさらに高まるとみられる。今後の学習指導面での改革に注目したい。
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