“にちがく”のマニフェストになる
3項目の信条を作成
長い伝統を持ち、吉田茂・横山大観・永井荷風など、教科書に載るような数多くの著名人を輩出している日本学園中学校・高等学校。二万五千平方メートルの広大な敷地に、駅より5分という学習環境と交通利便の良さで知られた同校が、今年度完全中高一貫制と、オリジナル教育プログラム『創発学』を導入して、新たな改革のスタートを切った。同時に学校の愛称も“にちがく”と定められ、校内外へアピールを続けている。
豊かな感性で改革を進められる外部の目を持つ教育者を…ということで、元読売新聞論説副委員長であり、日本学園OBでもある谷川平夫氏が、一昨年10月に校長に就任。以来、心地良ささえ感じるほどのスピーディーな仕事ぶりで、学校改革が進められている。
ただし、谷川校長はその成果に止まることなく、次なるステップを実践し始めた。学校の方向性を明確にした“にちがく信条”の制定である。
「読売時代、2000年に制定された『読売信条』の原案作成の任に就きました。これは、責任ある自由の追求や個人の尊厳に基づく人間主義など、報道という職務を全うする上での信条です。日本学園が生まれ変わるにあたって、きちっとしたメッセージを基本に教員が生徒を指導すれば、改革は成功するという思いから、この読売信条を作った経験を礎に“にちがく信条”を作成したのです」
さらに「作成にあたっては、今年の2月、教師陣に内容の発案を依頼しました。そうしたら『保護者が安心して子どもを預けられる場所であることが大切だ』と、多くの先生方は声をそろえたのです。私は、先生方の気持ちはこうなのだ、と非常に強く感銘を受けました。」と谷川校長。
この気持ちを出発点にし、さまざまな面から教育の方向性を決め、今年の4月、日本学園のマニフェストとして打ち出した。にちがく信条により、良い緊張感が保てるだけでなく、教育の壁にぶつかったときでも揺るがずに、生徒を導くことができるのだ。
にちがく信条
- 生徒の心とからだの安全を守る
- 生徒の知を涵養し学力を作る
- 生徒の個を尊重し自主・創造の実践力を育てる
目標は難関大学現役合格50%
完全中高一貫制導入
にちがく完全中高一貫クラスを設定した中学校では、高校からの外部入学生と混ざることなく、入学時に生徒自身が選択した難関大学クラスと進学クラス各々で、6年間のカリキュラムを消化していく。
難関大学クラスは、国公立大・早慶上智理科大・MARCHなどの難関私立大現役合格率50%を目指すクラス。週3日の7時限授業や計100時間前後の講習時間が確保された夏期講習など、万全のスケジュールが組まれている。授業は単元学習を最速で、しかも繰り返し進めるという独特の形式。毎週末には演習テストを実施して、学力の定着を確認することで、主要教科の基礎基本を徹底、応用発展へとつなぐ。また、この十分な時間配分により、中学課程は最初の2年間で修了。高校2年次で高校課程もすべて修了させ、最終年次の1年間を大学受験対応に充てて、目標大学進学を達成させるのだ。
進学クラスは、難関大学クラスよりもゆとりのあるカリキュラムが組まれている。授業は復習型を中心にプログラムされており、小テストの結果や日々の授業での学習進度から、『わからないを残さない』よう、確実な学力の定着を目指す。十分な習熟が得られていない生徒には、放課後学習指導などのフォロー体制が取られている。
両クラス共通で行われるのが、朝の0時間授業。全員が同じ本を持ち、文章を引き継いで読む輪読や、英文暗唱など、授業や行事とリンクするメニューが取り入れられている。
「最終目標は違うものの、クラス間交流は頻繁に行われており、互いに良い刺激を与え合っています。進学クラスの生徒には上昇志向の強い生徒もおり、放課後の勉強を見てほしいと言い出す子もいるほどです」
そう語るのは谷口哲郎広報副室長。改革が軌道に乗って、同時に生徒のモチベーションがアップしていることが伺えるエピソードである。しかし、モチベーションを維持するには、教師陣が生徒の興味・関心を引く授業を行うためのスキルアップが必要となる。そのためにも教員の意識改革は必須で、夏の間にこのスキル向上と意識改革を進めるよう、全教職員に指示が出されたばかりだ。『100%とは言い難い』と前置きをした上で、谷川校長は、「教員の努力は随所に見ることができます。生徒もそれに応え、学習意欲の向上だけでなく、態度も礼儀正しくなりました」と頼もしげである。 |
“にちがく”オリジナル教育
『創発学』で自己発信・創造型リーダー育成
中高6年一貫クラスの特筆すべき授業に『創発学』がある。これは、創造・自己発信力育成のためのスキルアップ・プログラムと、進路開拓力育成のキャリア・エデュケーションを組み合わせた、日本学園オリジナルの教育プログラム。企画・立案(事前学習)から調査・研修(フィールドワーク)、ロジカルシンキング(まとめ)、発表・評価(プレゼンテーション)を繰り返す。さらに研究した結果を中学3年生で論文としてまとめることで、自己発信・創造型リーダーとなる素質をもった人材として成長させる。実際にオリエンテーション合宿で林業を体験。座学では学べない厳しい実習経験で得た情報の発信に向けて、現在生徒たちで調査をまとめている段階である。また、自ら進路を開拓する力をつけるため、自分新聞を作成し、自己評価や他者評価を受けて『自分を知る』などのキャリア・エデュケーションが予定されている。プログラムで積み重ねた自己分析は、その後の目標大学や専門分野の決定に応用されていくことになる。
この7月、谷川校長にとって嬉しい出来事があった。日本学園は、中学校の改革と並行して高校でも改革に着手し、今春から「特別進学コース」を新設した。そのクラスが、今年の日本経済新聞主催の全国学生対抗円ダービーで優勝したのである。将来の円・ドルレートを予想するもので、原油価格相場も考慮に入れて考える必要がある。高校だけでなく、経済学を専攻する大学生が、ゼミで参加することも多い。今年は80校以上、約400チームの学生が予想値を競う中、見事、早大や明大チームなどの強豪を制して、全国優勝したのである。今年度の“にちがく元年”にとって、幸先の良いニュースとなった。
さまざまな改革を進める“にちがく”への注目度は高く、今年度の中学入試では受験者総数の伸び率は首都圏でNo.1の結果を出した。それでも「“にちがく”はまだ改革の第一歩を踏み出したばかり。現在の好結果に甘んじることなく、これからも気を引き締めてさまざまな改革を実践していきます」と谷川校長は決意を新たにした。
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