クラブの強さが学校全体を活性化
第79回選抜高校野球大会でベスト4に入った野球部や、関東大会優勝・インターハイ出場の経験をもつサッカー部が全国的に有名な帝京中学校・高等学校。特に昨年度はサッカー・野球両部の活躍が目覚ましく、今年度も引き続き、学校全体が活気に満ちている。
「帝京」の名をとどろかせた野球部とサッカー部は、以前は同じグラウンドを使用し、狭いスペースで、互いの球が接触する危険性の中で練習を続けていた。その状態でよくそこまで強く鍛えられたものだと、関係者が感嘆したほどである。しかし、3年前に移転した新しいキャンパスでは広々としたグラウンドで、野球部がさらに強さに磨きをかけている。一方、サッカー部は各種大会を自校で開催するためにも、都内にグラウンドの新設を希望。検討を重ねた末、清瀬市の土地にグラウンドを建設し、2面あるサッカー場の1面を優先的に使えることになった。しかし、グラウンドができてからの数ヶ月は着替える場所もなく、雨の日にはテントを張ってしのいでいたという。現在は寮やクラブハウスが建設され、十分な設備の中での練習が行われているが、最初の悪状況が、さらに生徒たちを強くしたと金野眞行校長は語る。
「アニマルスピリッツを持った会社が国全体の経済を活性化するように、野球部やサッカー部の勢いが全生徒の意識を活性化しています。その影響が生徒募集にも現れているのか、昨年度の高校卒業生が約220名で8クラスだったのに対し、高校新入生は340名11クラスに達しました」
帝京中学からの内部進学生のレベルアップを図るため、数年間は入学者数(定員150名)が減少するかもしれないが、合格ラインを高めのボーダーに設定しようということで、今年度入試を行ったところ、合格ラインを超える能力を持った生徒が多数受験、最終的に入学者数は昨年よりも増え、130名超・4クラスとなった。レベルアップに伴う数年後の実績が楽しみな一方、来年以降もこの状況が続くかどうか、期待と不安が入り混じる。
全体の活気は、入学生やクラブ生だけでなく一般の生徒にも波及。文化祭や体育大会を始めとするさまざまなイベントも活発さにあふれ、年ごとに人気を呼んで、多方面から注目を集めている。昨年の文化祭では、前年よりも1,000名以上の来場者数を記録するという、まさに人気校である。
授業評価制などの改革で
生徒への指導改善に一石を投じる
金野校長は改革第一期であった5年間の教頭時代を振り返り、校長や教頭が改革案を提示し実践した、トップダウン方式を反省すべき点も多かったと語る。その点を考慮し、昨年校長に就任してから迎えた改革第二期は、現教頭を中心とした教職員がさまざまな提案を行い、それを取り上げて実践していくボトムアップ方式を採用している。
「私が教頭に就任したのは、その前教頭・前校長がともに辞任した後でした。そのため、当時の新校長を補佐するスタンスをとり、校内にいる時間の約8割を校長室で過ごしたのです。他校の先生には『校長と教頭が表裏一体だ』とうらやましがられたこともありました(笑)。しかし、その教頭時代のおかげで校長に就任しても、私に補佐は必要ない。ですから現教頭には、職員室で他の教員とコミュニケーションをとるまとめ役となってほしいと考えています」
ただし、生徒による授業に対する評価制度は続行している。評価に対する取り組みへの緊張感を保つために、開催は3年に1度。生徒が在学中に1回経験するという割合で行われているのだ。この評価制度は授業内容改善や生徒理解といった教員の意識向上を目的とし、専門家による分析も含んでいるため、教員個々の指導状況を厳しく知らせるようになっている。この集計結果をもとに、教員全員と校長が一人ひとり面談。厳しい結果が出ることもあるが、教員各々の指導面の弱点を見つけることができるこの評価制度は、生徒の本当の声であるとして、外部内部両方から支持されている。
『自分がその授業にどれだけ真面目に取り組んでいるか』という回答者である生徒自身の内面を見つめる項目や、文章で評価内容をきちんと書き出す項目もあり、生徒の授業態度にもよい影響を及ぼすよう考慮されているのだ。
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教員テストや新改革提案で
柔軟な姿勢の学校へ成長を
改革の一環として行われた制度には、教員を対象とした学力テストもあった。校長と教頭がテストを作成し、印刷・採点までをたった2人で行うという徹底したもので、年々同じ指導をすることでマンネリ化してしまう可能性のある教員に刺激を与えるのが目的。教員にとっては真の実力が試されるプライドを賭けたテストとなり、多くの教員から、今までで最も緊張したテストだったとため息が漏れた。しかし一方、今までの「なぜこの問題ができないのか」「わからないのは生徒が悪い」という教師視線の考え方が変わり、生徒たちの心が理解できるようになったという意見も聞かれている。
「賛同してくれる人がいる反面、さまざまな反対意見も多く、この試験を今後実施するかどうかは、現在の教頭が提示してくる改革案内容によるでしょう。しかし、どれだけ批判を浴びても、その結果が子どもたちへのよりよい指導となれば、問題はないと私は考えています」
一方、改革案に上がっていた保護者からの評価制度実施には、まだ結論が出ていない。生徒と教員と校長、この校内の信頼関係を基盤とした生徒からの評価制度と異なり、保護者という第三者からの評価は、教員を精神的に萎縮させてしまう可能性があるからだ。
また、来年度にはシラバスを一部改訂し、さらにわかりやすく、確かな実力をつけるような教育を行いたいという提案が教員から出されていたが、未履修問題も含め、よりよい帝京独自のシラバス作成に向けて、現在検討中である。最後に金野校長は、数年後には若い世代にバトンを託せるよう、さらに柔軟性のある姿勢を持った学校へと改革を進めていきたいと熱く締めくくった。
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