「アシステンツァ」という教育方針の実践を徹底する
移転に伴う雑事などで、どことなく教師と学生の間で、親密度を保つ余裕に欠けてしまっていると感じた鈴木校長が、就任時、最初に教授・助教授陣に述べたのが、サレジオ会系列学校の教育の方法である「アシステンツァ」(イタリア語で“常に寄り添う”という意味)の充実ということだった。学生と教授陣の気持ちが離れていては教育はできないし、家庭との信頼関係も築けない。学生と教授陣の親しみの度合いが深いというのは、旧育英高専時代からの伝統であり、そのフレンドリーな気質を堅持したいと考えたためだ。
「常に学生たちのそばに、教授・助教授たちがいるということが大事なんです。本校では20歳にもなろうかという学生もいるわけですが、それでも物理的にも精神的にも彼らのそばにいて、学生たちの必要に常に応えられる。そういう教育の方法を持つというのが大きな務めであると考えています」
地域での知名度も徐々にアップ
このような姿勢は地域社会にも向けられ、できるだけ学校自体が早く溶け込めるように、地域からの要望には協力を惜しまない。例えば、地域23の大学などの街中合同学園祭「学生天国」(5月14日開催)では、同校の吹奏楽部が演奏を披露。アンコールの喝采を浴びるほど、見学者に喜ばれて好評を得た。また、同校を特徴づける「プロジェクト教育」のひとつであるソーラーカーも特別展示。どんな構造になっているかがひと目でわかるように、車の上部、下部を少し解体して展示したのが功を奏し、子どもから大人まで、随分興味深げに見学していたという。
「ほかにも八王子学園都市講座、いわゆる生涯学習講座ですが、そこでうちの教師が講義講演しているなど、地域社会へは積極的に関わらせていただいています。地域貢献は知名度アップにもなりますし、近隣学生の獲得にもつながるはずですから」。
もちろん、オープンスクール、1日体験入学も実施されるが、アピール度の高い「鳥人間コンテスト」へのチャレンジや、ソーラーカーやエコノパワー(ガソリン1リットル、時速25q以上で走行距離を競う)の競技への参加など、サレジオ高専の特性であるプロジェクト教育についても積極的に発信していく構えだ。
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就職7割、進学3割を、5対5にまで引き上げたい
ところで同校は、実社会に役立つ技術の修得学校として、就職率100%を誇り、就職先には大手企業が名を連ねる。が、このところの技術革新は目覚ましく、もはやそれだけには止まっていられないとも鈴木校長は指摘する。
「2007年問題で、技術国日本の危機も言われるなか、それを補う高度な技術、あるいは研究を進めていく高専の学生に、期待されるところも大きいと思います。しかし一方で、もっと高いレベルを目指し大学3年への編入学生が増えることも期待しています。そうなると、当然カリキュラムの変更はもとより、学生に要求するレベルもかなり変わっていくことになるでしょう」
現在同校では、70%の学生が就職を希望し、進学者は30%であるが、それを50%対50%程度にしたいという。無論、進路希望はあくまで学生たちの希望によるが、今後の傾向として、進学希望者が増えるのは、ほぼ間違いないと予測しているのだ。
そうなると、これまでともすると技術にシフトしすぎる傾向がみられる学習内容を一部見直し、特に1・2年生の間には、一般に教養と言われる知識、数学、国語、社会なども十分に学習させる必要があるという。しかしそれは、単に授業時間数を増やせばいいというのではない。同校の場合、大学への編入といっても一般教科による評価より、あくまで技術力が重視される。したがって、むしろその技術力を伸ばすための背景となる、一般教養の強化の重要性を鈴木校長は強調する。
「これが“技術は人なり”で、人間としての豊かさの背景として、一般教養の豊かさが素地、土台となってしかるべきですが、全国唯一のミッション系高専としての特徴を生かす倫理教育や人間学講座などの見直し、学生への啓蒙をしなくてはならないと考えています」。
また進路指導では、多角的な指導法が求められる。つまり、自分の専門だけに目を向け、ほかのことは知らないというのではなく、教授は、自分の専門以外のほかの技術に対しても、尊敬を持って指導にあたる姿勢が重要となる。その点、人間的にも技術的にもユニークな人材が揃っている同校では、十分対応できるとしている。
アジアからの留学生を再び受け入れる
移転問題によって、途切れてしまったものがある。それが外国、主に東南アジアからの留学生受け入れだ。ここ2年ほどのブランクから復活するにあたり、短期交換留学ではなく、1年目は日本語学習に充て、2年目から日本人の学生と同じように技術を学び、修得させるというシステム作りに着手している。
「日本の技術を学びたいという学生はたくさんいますが、経済的な問題に直面している学生を援助し、日本の技術を本国の新たな国づくりに役立ててくれる人材を育てられたら、こんな素晴らしいことはありません。外国人留学生たちの学習意欲は、目をみはるものがあります。それが日本の学生たちにも奮起を促し、よい影響を与えてくれることを期待しているのです」。また、モノ作りのための想像力を養う「プロジェクト型教育」については、今後その柱は、地球環境保護を目的とした燃料開発とそれに関する技術開発、そして福祉という2本柱になるだろうと指摘。そこに目標を絞った教育、あるいはプロジェクト開発をどうするかが指導の課題になりそうだという。
そのためには、学校として今後は「教師・指導者側」の研修も必要だと考えている。高専だから教授、助教授という肩書きを持った人がたくさんいる。よって、自己研究や専門分野での研究は、地域の高等教育機関、大学や企業との連携を盛んにしながら、自らも発表してもらえるようにしたいという。「そういう教授陣のレベルアップが叶えば、必ず学生に還元されます。日進月歩で動いている技術、世界を見据えた、志の高い指導者が必要になることは間違いないですから」。
19年度入試では、推薦入試には変更はないが、併願入試には国・数・英の学力試験のない新制度が追加される。また、学力選抜入試では、塾長先生などの意見を加味しながら、幅広く学生を受け入れる制度もフル活用したいという。
キレイ事ばかりを言うようで、と恐縮するような素振りを見せながらも、サレジオ高専の教育理念「神は愛なり 技術は人なり 真理は道なり」に則った、本来あるべき教育現場の姿を、さらに充実させようとする鈴木新S校長の今後の活躍に注目したい。 |