117人が祈りを込めて作りあげる
伝統行事
クリスマスを間近に控えた12月19日(土)、賢明女子学院に保護者や卒業生、受験予定の親子連れなど500人近い人たちが詰めかけた。この日は、午後からクリスマスタブローが一般公開される。
タブローとは、フランス語で絵画の意味。イエス・キリストの生誕を絵画的に表現する静止劇である。配役の生徒は舞台上で静止して聖書の場面の絵をつくり、台詞を言うのは声役の生徒たち。30年以上も前から続く伝統のクリスマス行事だ。
上演前に挨拶に立った畑武志校長は、「イエス・キリストの誕生以降、世界中の多くの人々が、その愛の言葉に希望を見いだしています。隣人を愛する心こそが人を癒し、世界を平和にする。その祈りとともにこのタブローはつくられました」と語った。
クリスマスタブローは高校1年生全員でつくりあげる。夏休み前に、立候補により23人の実行委員が決まった。そこから脚本づくり、キャストと声役のオーディション。聖歌隊や大道具、照明などの担当を決め、各パートごとに練習を積み重ねてきた。
高校1年生117人を代表して実行委員長の藤原朱音さんが登壇し、「先輩が受け継いできた伝統のタブローを今年もつくりあげることができました。皆さんの心に神様の愛が届きますようにお祈りいたします」と挨拶を述べ、「一緒にクリスマスをお祝いしましょう」の言葉を合図に、開演ベルが鳴り響いた。
心と、声と、技と、働きの
ハーモニー
「初めに神は天地を創造された」
ナレーターの声が聞こえ、真っ暗な舞台にスポットライトが当たると、そこには背中に白い羽のはえた天使の姿があった。ハンドベルによる「きよしこの夜」が流れるなか、天使は微動だにしない。まさに美しい絵画である。
クリスマスタブローは全5幕。マリアの婚約から始まる物語を、舞台に絵を描くように場面を展開していく。会場の右サイドには、ピアノやバイオリン、パーカッションなどからなる楽器隊と50人以上の聖歌隊が控え、賛美歌やクラシック音楽で場面の雰囲気を盛り上げる。
演出も舞台監督もすべて生徒が務める。登場人物を舞台のどこに配置し、どのようなポーズをとらせるか。練習のなかで練り上げてきた。
学年主任の上原順子教諭は、「物語の流れは決まっていますが、味付けするのは生徒たちです」と話す。ある年にはバレエを踊るシーンもあったという。今年度は聖書に忠実なタブローをめざした。
物語は進み、神の子を身ごもったマリアと夫のヨセフが住民登録のためにベツレヘムへと向かう。同じころ、3人の占星術の学者が東方で光り輝く星を見つけ、救い主の誕生を知る。また、野原で夜番していた羊飼いたちは、天使からキリストの生誕を知らされた。この場面の前後に中学3年生と高校3年生が登場し、それぞれ「まきびと」と「O Holy Night」を歌い上げ、会場を荘厳な雰囲気に包み込んだ。
そして最終幕の第5幕、羊飼いたちが急いで町に向かうと、不思議な星に照らされた馬小屋で、乳飲み子が飼い葉桶に寝かされていた。星に導かれて3人の博士も到着。天使たちも舞い降り、舞台いっぱいにイエス・キリスト誕生の喜びが広がる。「この喜びを歌おう!」とかけ声が上がり、演奏隊の力強い演奏をバックに「ハレルヤ」の大合唱が響き渡る。客席から大きな拍手が湧きあがるなか、舞台の幕がゆっくりと下りていった。
終演の挨拶で、シスター山本千惠理事長は、「心と声と技と働きを、皆でハーモニーとして作りあげました。その喜びと達成感がひとつの実りとして残っていくでしょう」と語った。続いて副実行委員長の今岡春さんと入江ひらりさんが、「知恵を出し合い、工夫していくなかで新しい絆が生まれ団結力が高まりました。この経験から得たものを生かし、一日一日を大切にしていきたい」と挨拶を述べ、最後に全員で「We wish you a Merry Christmas」を合唱し、来場者を見送った。 |
目標は難関国公立大
ソフィアコース
第1期生が卒業
終演後、上原教諭は生徒たちの頑張りをたたえ、実行委員長の藤原さんには「見事にコーディネーター役を果たしてくれました」とねぎらいの言葉をかけた。
藤原さんは、中学に入学して初めてクリスマスタブローを観たときから、高校1年になったら実行委員長に立候補すると決めていた。6年間でただ一度の機会を、さらに思い出深いものにしたいと思ったからだ。
何度も会議を開き、各パートのリーダーと相談しながら、全員をまとめ上げていった。「117人が頑張ろうとベストを尽くしたから、成功することができました」と笑顔を見せる。
同校では、「思いやる力」「叶える力」「創る力」を、未来を切り拓く重要な力と位置づけ、授業だけでなく学校行事や奉仕活動などを通して人間力を高めている。
例えば、英語教育では中学1年の3学期にスキットコンテストを開催。生徒が英語で物語を考え、衣装をつくり、英語力と表現力を磨き上げる。学院祭などの学校行事では、全員が必ず一人一役を担当する。クリスマスタブローもそのひとつだ。
こうして日々の学校生活や行事で培われた未来を切り拓く力、物事を成し遂げる力は、大学受験においても遺憾なく発揮される。毎年80人前後が関関同立に合格。特に英語力を生かした私大受験には定評がある。また、理系選択者が約3割を占め、医療系へ進学する生徒は全体の約2割に上る。しかも、その半数近くが医歯薬系だ。
2013年度からは、生徒の進路希望にさらにきめ細かく対応するために高校にコース制を導入。難関国公立大をめざすソフィア(特進)コースと、難関私大や国公立大を進学目標とするルミエール(進学)コースの2コース制となった。その第1期生が今年、いよいよ大学受験を迎える。生徒一人ひとりが伸び伸びと持てる力を発揮する賢明女子学院。進学実績も大いに期待できそうだ。
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