「地球に暮らす生きものは、38億年前に生まれた細胞のゲノム(DNA)を持っています。人間も動物も植物も同じ祖先を受け継ぐ仲間なんです」
穏やかな表情ながら凛と講義をする中村桂子先生。スーパーサイエンスコース(SS)高1生が訪れたのは、大阪の高槻市にあるJT 生命誌研究館。SSでは月に1度、第一線で活躍する研究者や技術者を講師に迎え授業を行っている。この日は、生命誌学者として世界的に知られる中村先生が館長の研究所を訪問しての特別授業だ。
「現代文明は利便性を価値観の基本に置いたため、生きもののもつ時間と関係を切ってきました。それを取り戻す社会を作りたい」
長大な生命の歴史をレクチャーしながら、行き過ぎた現代文明を批判する中村先生。2クラス50名の生徒は発言を聞き漏らすまいと懸命にノートを取っている。
「機械論ではなく生命論的自然観に基づく学問を生み、哲学や芸術と共に新しい知を組み立てることが今、必要だと思います」
特別授業では、これまでシャープ総合開発センター、大阪大学産業科学研究所、神戸総合技術研究所(神戸製鋼所)、大阪ガス科学館などを訪問してきた。また、播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すSPring-8といった貴重な施設も訪問してきた。
授業は毎回レポートにまとめ、数日内に提出をする。かなりのハードスケジュールだ。他にも「数学演習」「科学演習実験」「理系英語」など、他コースにはない独自の授業を展開している。
高1からテーマを決めて
グループ研究
附属校のメリットを活かし
大学でも活動
SSは中1から6年間のコース。中学では土曜セミナーと称し、ものづくり探究に取り組んだり、自然の中でのフィールドワークも行っている。
高1になると、テーマを設定してグループ研究を行う。高3ではその研究を「卒業研究」として発展させていく。論文はすべて英語で執筆するのが原則だ。内容は大学生並みか、場合によっては大学院並みのレベルを要求される。そのため系列の大学に研究室を借りているグループもあり、教授に指導を受けることもある。毎日、放課後遅くまで活動するグループも少なくない。
「今は食品のメイラード反応(糖化)について調べています。肉やパンなどに焼き色がつくと、料理自体はおいしいのですが、一方で身体の老化を促進させる現象でもあるんです」という生徒。
ポリフェノールの効果を調べたり、情報プログラミング言語のRubyとCの比較を行うなど、テーマは科学全般だ。 |
今夏はアメリカ
サンディエゴで研修
研究成果を英語で
プレゼンテーション
高1生は夏休みに海外でサイエンス研修を実施している。この夏は米国のカリフォルニア大・カリフォルニア州立大学などを訪問。研究室を見学したり、グループ研究の成果を英語でプレゼンテーションした。現地の高校生との科学交流も行う。研究テーマは、免疫細胞の機能、紫外線、太陽電池など、自然科学から工学など多岐にわたる。これまでデンマークで風力発電を調べたり、米国のスタンフォード大学でも研修を行ってきた。
生徒の半数以上が薬学部へ進学する。京大、阪大などの難関校へ進学する生徒も少なくない。
ここ数年は、天文学や建築学など工業分野への志望者も増えているという。
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