コースごとに数値目標を設定し進学強化
大谷中学校・高等学校は今年4月、学校改革のグランドデザインに基づく中・長期計画を発表した。これは学校法人真宗大谷学園全体の「存立の精神」のもと、各校が方針と目標を設定して具体的に実践していくというもの。「教育」「生徒募集・進路指導」「学校経営」を3つの柱として、それぞれ目標を掲げている。
昨年校長に就任した太田清史校長が就任後すぐに着手したのがこのグランドデザインづくりだ。
グランドデザインは、「学校スローガン“To Be Human(人となる)”を基盤とする仏教教育を展開する」をテーマに、今後10年間を3年・4年・3年の三期に分け、期ごとに見直しをかけながらよりよい学校づくりを進めていく。
「中心となるのは各コースごとの教育内容と出口。進学を強化していきます」と太田校長。
現在のコースは、バタビアコース(マスタークラス・コアクラス)とインテグラルコースの2コース3クラス制。計画では、それぞれの進学強化を目指し、今後3年間で達成すべき数値目標を設定している。
バタビア(マスタークラス)は、国公立大学現役合格者率70%、バタビア(コアクラス)では、難関私大と国公立大学の現役合格者率50%、中堅私大は70%とする。インテグラルコースは、指定校・協定校推薦での大学進学率70%、自力受験での現役中堅私大レベルへの合格率20%を目標に設定している。
平成19年にバタビアコースをマスタークラスとコアクラスに2分化して以降、進学実績が飛躍的に伸び、今年大学受験したマスタークラス3期生の国公立大学現役合格率は72%。すでに目標値をクリアしてしまった。中高一貫のマスターJrクラス1期生は現在中学3年生。この生徒たちが加わると進学実績はさらに伸びると予想される。一方コアクラスの生徒もマスタークラスの頑張りに刺激を受け、国公立大学にチャレンジするようになり、今年は15名(10%)が合格した。
コースごとに出口をはっきり示すことにより、大谷で学びたい子どもが自分に合うコースを選びやすくなる。例えば、科学技術の専門家をめざす子どもにはマスタークラス。部活も勉強も頑張りたいならコアクラス。高校生活をエンジョイしながらスポーツや自分の得意分野を生かしたい子どもには、指定校推薦枠のあるインテグラルコースがある。
太田校長は「本校の良さは、様々なタイプの子どもが一緒になって学校生活を送れるということ。それぞれのコースで全力で取り組んでほしい」と話す。
心の成長をサポートする仏教的人間観
学校スローガンの“To Be Human(人となる)”には、あるがままの人間は不完全な存在であり、その不完全さを認めたところから他者を受け入れ、人間として成長していくという意味がある。それはまた生老病死のなかで人間として完成されていくことでもある。
「思春期や思秋期といわれるように人間の一生は四季に譬(たと)えられます。そのなかで一番大事なのが思春期、中学高校時代です」と太田校長。子どもにとって1日1日は、非常なスピードで成長していく過程であり、心は毎日が激動の戦いともいえる。そのなかで心の病気を発症したり、自己破壊行動に出てしまう子どももいる。
「そういう時期をどう育てていくか。学校がベースとして、いま子どもの人生のなかのどこを預かっているのかという位置づけを持っていなければなりません」。
太田校長は仏教学・教育学が専門。校長に就任するまで大学で教鞭をとっていた。また臨床心理学者で文化庁長官も務めた故河合隼雄・京都大名誉教授に師事し、臨床心理士として大学の学生相談室や精神科クリニックにおいて臨床活動をおこなってきた。心の専門家である。
「子どもたちには、人生の最期のところまで人に感謝しながら与えられた命を十分に生かし切って欲しい。そういう視点で子どもを見て育てていくことが、私の役割であり責任であると考えています」。
学校改革のグランドデザインを支えているのが、人間存在への深いまなざしであり、仏教的人間観だといえる。
ラジオ番組で大谷の教育を発信
今年度初めに太田校長が学校目標として掲げたのは、「組織力に基づくより良い学校づくり」。グランドデザインを遂行していくためには、まず組織力の強化が求められるからだ。広報部、進路部など各部門の部長を責任者として予算も割り当てた。そして、「大谷ファミリー」というキーワードが年度目標として提示された。
「大谷ファミリー」といっても在校生や卒業生に限定しているわけではない。大谷の教育を時間と空間を超えて広げていこうというもの。今年度はこのキーワードを各部門が具現化していく。
入試広報部長の梅垣道行教諭が企画したのは、ラジオ放送だ。前例のない取り組みであることからダメもと覚悟で提出したところ、太田校長から「おもしろい」とあっさりOKが出た。 |
それが毎週木曜日の21時から20分間、KBS京都ラジオで放送されている「大谷発未来行 Now,Life is Living you.」という番組だ。梅垣教諭がパーソナリティを務め、先生方や在校生、卒業生らが登場し、様々な角度から大谷を語る。前回の収録では、先生方が緊張で固くなっているのに対し、生徒たちは伸び伸びと学校生活や将来の夢を語り、ラジオ局のスタッフを驚かせた。
梅垣教諭は、「本校の校風です。生徒の発言を認める。存在を認める。型にはめないで自由にさせて、挑戦を皆で応援する雰囲気を大事にしています」と話す。
それができるのは言うまでもなく、先生方と保護者がコミュニケーションを密にし、スクラムを組んで子どもたちを見守っているからだ。
ラジオ放送は、生徒や保護者、先生方に大好評を博している。放送時間になると、うちではAM放送が入らないからと、一家揃って車に乗り込んで聞くという家庭もある。オンエア翌日は教室や職員室で番組の話題で盛り上がる。皆が和のなかにいる雰囲気だという。
太田校長は、「保護者や同窓生にも本校の今を知ってもらえるという点で、内部広報としても大成功」と笑顔だ。
大谷スピリットを発揮するボランティア活動
「生徒にとって居心地のよい学校でありたい」と梅垣教諭は言う。
実際に生徒たちからは「学校が楽しい」という声が聞こえてくる。国公立大学をめざすマスタークラスの生徒たちのクラブ加入率は50%を超えている。毎年9月に行われる学園祭とそれに続く体育大会は、高校3年生も本気で取り組む。
数年前に梅垣教諭が担任を受け持った旧バタビアコースの3年生は、学園祭で福井県敦賀市から学校までの「100q駅伝」を企画。安全面を危惧する先生方や保護者に対し、皆で知恵を出し合い問題をひとつひとつクリア。最後には周囲の応援を取り付け、テレビ局の取材まで呼び、クラスの一人ひとりがたすきをつないで100qを走りきった。
生徒が自発的に行動するのは自分たちが楽しむときだけではない。15年以上前から続いている「ハレジャ」というボランティア活動がある。空き缶を集めて車いすを贈ったり、そのときに必要とされる活動を展開してきた。生徒会が中心となっているが、メンバーは固定していない。ハレジャの腕章をつければ、誰でもハレジャになる。昨年の東日本大震災のときは、その日のうちに義援金活動を行うことを決め、それから半年間、毎週末に京都駅や東本願寺に立ち通行人に呼びかけた。
「本校の生徒たちは、伝統的に人に感謝し、人のために何かしたいという気持ちを持っています」と梅垣教諭。
進路の希望も、教師や消防士、栄養士など人の役に立てる職業が多いという。
そこには、「自分が生きているのではなく、たまたま命をいただいて生かされている。その命を自分だけのものとせずに自他のために生きる」という、大谷スピリットが根付いているように思われる。
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