学力向上は、時間・物・心の管理から
自ら学ぶ姿勢を養う
校長に就任して1年目、平沢校長はまず教員の意識改革にじっくり取り組んだ。そのコンセプトは『変化と刺激』。漫然と同じことを繰り返しがちな学校行事を全て見直し、生徒にとってより充実したものに創り上げていくには、どんな「変化」が加えうるのか。そして生徒に良い「刺激」を与え、成長の契機にする。
この校長の熱い思いを体現するにあたって、中学校、高等学校に「主任」を据えた。主任は校長の思いを各学級担任に伝え、共に新しい行事、取り組みを再検討していく。その中の一つ、入学当初に実施していたガイダンスは大幅に見直された。中学校は、ホテル阪急エキスポパークでの一泊二日のオリエンテーション合宿。学校生活に関する講話を中心に、集中セミナーを実施。録音を聞いてメモを取る訓練など、学習のウォーミングアップとなる実践的なトレーニングも積極的に導入している。
高校は、学習に特化した合宿だ。自学自習の重要性を再確認するため、全員が2時間半休憩なしで自習に集中するという試みにも挑戦した。
「どの生徒も懸命に取り組み、終了のベルが鳴ったときには、思わず生徒から拍手が沸き上ったほどです」と、三宅理磨教頭は手ごたえを語る。
また、時間管理力を養うため、「システム手帳」を導入、全生徒に配布した。生徒は、一学期、一ヵ月、一週間単位の計画を立案。それに向けての行動予定を手帳に書いていく。その後、どういう行動をとり、学習をしていったかを記録することで結果をチェックする。中学はB5サイズの専用ノートを使っているが、高校は本格的なビジネス用システム手帳だ。
「今の生徒を見ていて感じるのは、与えられたものを受け入れるのは上手ですが、自分から動く力が弱い。積極的に学んでいくためには、知的好奇心を揺り動かす必要があります。そのための“仕掛け”が合宿やシステム手帳なんです」と校長。
実社会でも昨今、時間管理はビジネスパーソンに不可欠な能力とされているが、早い段階から、その重要性を意識し、自己管理の習慣を身につけていくのが狙いだ。
阪大歯学部の現役合格も叶えた
マンツーマン補習と教員の情熱
中高を通じて1学年2クラスという小規模な教育スタイルを貫く聖母被昇天学院。その規模を「大きな利点」としているのも特長だ。関西学院大、関西大、神戸女学院大など、卒業生の7倍近い指定校推薦枠を持つ同校だが、推薦枠に妥協することなく、一般入試で大きな夢に挑戦する生徒が増えてきた。今春は難関の大阪大学歯学部への現役合格者も輩出した。
「阪大歯学部へ入った生徒は、当初から私立を併願せず国立一本で行きたい、と強い決意を持っていました。それならば…と教員も懸命にバックアップ。数学V、物理Uの補習を生徒一人のために開講しました。マンツーマン授業ですから家庭教師のようなものですね」と三宅教頭。
毎週水曜と土曜の放課後に行う補習では、生徒の志望進路に応じ、たとえ生徒が一人でも授業を実施するという。
「阪大の二次試験は卒業式の三日後でしたが、その生徒は式にも参加し、所属する軽音楽部のバンド演奏も披露してくれました。合格発表の日は職員室で電話を待っていたのですが、電話がかかってきた瞬間、ヤッター!と職員室全体に歓声があがりました」
もちろん、こういう細やかなケアは難関大を志望する生徒だけではない。
「本校は、教育熱心なご家庭が多く、アンケートを取ると保護者の皆さんの思いは非常に高いことがわかります。その期待には応えなければいけない」と、平沢校長は学習面への更なる強化を目指す。 |
必修のフランス語は
進学後に大きなメリットにも
聖母被昇天学院は、1839年にフランスで創立された聖母被昇天修道会を母胎とするミッションスクール。系列校は世界34カ国にあり、5万人の生徒が学んでいる。そのためフランス語が必修科目になっている。週2時間の授業では日常会話を中心にフランス語の基礎をマスター。フランス語検定を取得する生徒も少なくない。また、高校在学時にフランス語を履修しておけば、大学進学後、語学の単位が免除されるケースもある。語学教育が益々重要視される昨今、これは大きなアドバンテージと言えよう。
取材に伺った日は、ちょうど2年に1度実施されるフランス研修旅行の帰国日に当たっていた。関空へ生徒を迎えに赴いた校長は、「フランスではパリの修道会本部やボルドーの姉妹校を訪問し交流します。皆さん、初めて会った生徒にも家族のように接してくださいます。現地で創立の歴史や創立者聖マリ・ウージェニーの思いを知ることで、本校がどういう教育を目指しているのか、どの生徒も意識するようになります」
女子校らしい情操教育も欠かさない。特に同校が注力しているのが書道だ。中1中2は書写の授業が必修。高校では芸術選択科目になっている。その実力は全国でもトップレベルだ。昨年の第55回全国書き初め作品展覧会では、文部科学大臣賞(高校で全国1位)、中学は団体で全国3位に輝いている。中高とも常に全国で五指に入る実力を誇っている。
実社会で通用する強い女性像を理想としながら、たおやかな一面も守り抜く同校の女子教育。その進化は、今年度さらに進んでいくことだろう。
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