教員の意欲と保護者の満足度
評価制の継続でともにアップ
神戸市垂水区の高台にある愛徳学園を初めて取材で訪れてから6年が経つ。「凛とした空気の漂うミッションスクール」という印象はその時から変わっていない。しかし、この間に着実に改革改善されたことを感じさせる学校である。
学園では、数年前から学校評価制を取り入れ、現在も続けている。生徒による授業評価や保護者による満足度調査は、学校や教員にとってはできれば避けて通りたいものだ。だが、それを続けてきたことで教員の向上意識が高まっている点を能美啓子校長は重視する。
一般に、ベテラン教員ともなると長年のキャリアや指導スキルに対する自負をもっている。とりわけ私学では教員の移動がほとんどなく、外部からの刺激を受けにくいため、しばしば自負は独善性を帯びるとも指摘されている。授業評価は、そんな教員の見落とされがちなマイナス面を解消させ、授業の質を高めてきた。評価制を導入した頃に比べると、授業に集中できている、授業の狙いや要点がはっきりしたと感じている生徒は増えている。
また、小規模校のため、多様化する受験選択教科への対応は、本来なら非常に困難なところである。しかし、学園では「1人授業」も成立させてきた。これは自らの授業時数を増やしてでも生徒の進路希望を叶えようとする教員側の申し出によるもの。学校評価制は授業そのものだけでなく、学校運営全般における教員の意欲を高めたといえ、着実に学校を改革してきたのである。
そうした取り組みに対する保護者の評価も数字に表れている。中学校で84.3%、高校では86.4%の保護者が学校教育全般に満足しているという結果が出ている。ただ、「生徒の自律心を養えているかという点では、保護者の満足度は十分ではない」と能美校長はいう。「規律を緩和した中にあっても自律的に行動していく力を保護者は求めている」と率直に課題を明かす。
一方で、卒業生からは「厳しい学校だったが、卒業後にその良さが分かった」という声が寄せられている。教育の成果は在籍中に表出するものと卒業後にゆっくりと表れるものとがある。社会生活を送ること自体が厳しくなったといわれる今、中等教育に求められているのは、生涯を通して強く生き抜いていく基本的な精神性ではないだろうか。そのことを設立以来、建学の精神として堅持してきた愛徳学園。巣だった卒業生の言葉がそれを証明している。
生涯成長の種を
まく教育活動
2010年、中学校では2つの作文コンクールで3名の受賞者が相次いだ。郵便事業株式会社が主催した手紙作文コンクールと全国小中学校作文コンクールでの入賞である。小規模校で1年間に3人という受賞密度は極めて高い。
このことは作文技術もさることながら、日常でのものの見方、学習や体験したことを受けとめる感性の優れた生徒が育っていることを物語っている。
手紙作文コンクールで文部科学大臣賞を受賞した生徒は、修学旅行で訪れた広島での体験とその事前学習を通して「三百二十一人の弟たちへ」と題した作文を書いた。被爆し全滅した321人の中学1年生に思いをはせ、語りかけた手紙は読む者の気持ちを揺さぶる。
また受賞は、学園で長きにわたり平和学習に取り組んできた社会科教員の成果という見方もできるのである。教員は広島での平和学習を単に被爆という観点のみならず、軍都広島の観点からも学習を掘り下げてきた。また、被害者であると同時に加害者でもあったかつての日本の一面に触れる学習も進めてきた。
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そして、最終的に平和への取り組みは、世界が共有すべき課題であると気づかせる狙いをもっている。こうした取り組みは平和学習に限らず、様々な行事にも見られ、学園が目指す「他人の痛みを知り分かち合う」教育の一環をなすものである。
そうした教育を通して、日常の様々な出来事や社会的事象に関心を寄せ、自分のこととして受け止めることができる感受性は育まれていくのである。それは生涯にわたって自分自身を形成し続けるための心的栄養素であり、ひいては社会に貢献できる人材へと育っていくための必須アミノ酸といえるかもしれない。
進学先に選ばれる
看護、福祉関係
昨今の傾向として、進学先は医療系などの資格取得に有利な大学に進む生徒が多くなっている。今春卒業した生徒の進学先一覧にも看護、理学療法、社会福祉関係の学部学科が目立つ。小椋久光副校長は「自分の目標のために粘り抜いた生徒が、最後に成果をあげられてよかった」と話し、一般入試後期試験まで志望大学をあきらめない生徒の粘りをたたえた。
学園で過ごす6年間に生涯の進路を見いだし、最後まであきらめず目標を勝ち取る。そんな生徒が一人でも多く巣立っていくことを願いながら、坂の上の学園を後にした。
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