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中学・高校受験:学びネット

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大谷中学校・高等学校

 
  バタビアシステム50年を機に 進化し深化するコースとクラス
安心して授業に集中できると好評の授業形態「バタビアシステム」導入から来年で50年目を迎える大谷中学校・高等学校。一つの改革から小さな改善を波及させていく手法は、教育の本質を堅持しながら「子どもの今」に寄り添う大谷らしさがのぞく。来年から中学校は、今まで1つだったバタビアコースをマスタークラスとコアクラスの2タイプのクラス制へとリニューアルし、中高の6年間を「2.3.1」のタームでさらにきめ細かく伸ばす体制を整備。一人の生徒からいかに多くを引き出すかという理念と実践が融合する学校を取材した。

校 長: 真城 義麿
住 所: 〒605-0965 京都市東山区今熊野池田町12
電 話: 075-541-1312
交 通: JR奈良線、京阪京都本線「東福寺」駅より徒歩5分
学生数: 中学校 297名
高等学校 1,073名 (2009.9.1現在)
ホームページ: http://www.otani.ed.jp

 

建学理念と時代のニーズ
融合させる大谷らしさ

 ――時代がどんどん人間であることを許さない時代になっている。『教育』はどれだけ人に多くのものを詰め込むかではなく、どれだけその人から多くを引き出せるかということ―─。大谷中学校・高等学校で定期的に開催されている「今熊野セミナー」での真城義麿校長の言葉だ。

 ともすれば、現代社会は数字によって合理的、一面的に理解しようとする風潮が強く、教育の場においても例外ではなくなってきている。人を育むという学校の本質的役割に加え、進路保証という付加価値重視の傾向も強まっている。

 確かに、数字は客観的な説得力を持ち、将来の自立に深く関わる進路保証は、学校選びの観点の一つだ。だが、その観点が単一化してしまえば、あるべき教育(真城校長はこれを「啓蒙」と表現)から遠ざかると懸念する声は根強い。今、学校は全人教育と時代のニーズに応えるという二つの命題に挑戦を強いられている。

 大谷を取材して強く印象づけられるのは、この、時に矛盾しやすい二つの命題を建学理念と日々の実践を融合させ、迷いのない教育活動を実践しているという点だ。付加価値をつけるまえに本体価値を充たし、優秀な人材である前に心豊かな人間を育むことを中等教育の一角で朴訥と続けてきた。

 一方で、進路実現のためのよりきめ細かいコース、クラスを設定することで、最大限学力を伸ばし、最後の最後まであきらめず粘り抜ける指導体制を築いていく。そのための検討が本格化してきた。
数学のセンスと
違いを認める心

 教育活動の核になる授業を参観した。正確には1学期終了後に行われる夏期(特別)講習の授業だ。中1〜高3まで学年ごとに期間の長短はあるが、すべての学年で夏期講習は実施されている。参観したのは国公立大進学を目指す高2マスタークラスの数学の授業。

 すでに授業が始まっている教室に入ると、梅垣道行教諭が黒板に三角関数の数式を書きこんでいた。ぴんと張った空気の中、全員がそれを注視している。テンポよく書き込みながら、解くために数式の特徴を分析していく教諭。そのひと言、ひと言を聴き逃すまいとどの顔にも緊張感がうかがえる。が、その緊張感は問題を解くという一点に集中し、それ以外の無用の緊張を感じさせない。フランクな語りで授業に引き込んでいくテクニックに生徒と教諭の日常が垣間見えるようだ。

 どんどん生徒を当てていく教諭。公式を当てはめ正攻法で解いていく生徒もいれば、別の角度から答えを導き出そうとする生徒もいる。そんな生徒に「え?2πを引いた?・・・・あなた、なかなかの人ですね」と予期せぬ解き方に教諭の方も乗ってくる。

 実はこうした「もうひとつの答えの出し方」が思いつく授業を梅垣教諭は重視している。マスタークラスならではの深みを持たせた授業の特徴と言える。そこには「ものごとをいろいろな角度から考えられるというのは大切です。数学の授業ですが、同じことが人生にも通じることといつか気づいてもらいたいのです」との思いがある。

 途中、真剣な中にもユーモアを忘れない教諭。70分の授業を最後の1分まで集中させるために必要な、おそらくは教諭自身も無意識で行っているだろう息抜きの瞬間だ。教室全体がドッと沸いて空気がなごむ。が、すぐにもとの引き締まった空気を取り戻す生徒たち。そこに教える側と習う側の爽快な信頼関係が感じとれる。

 授業終了後、教諭のもとに一人の生徒が寄っていく。質問かと思われたが、後で聞くと、「あの生徒は自分なりの問題の解き方を私に聞いてほしかったんです」と梅垣教諭。そういうことはよくあることだという。また別の生徒は授業中に答えたクラスメートの解き方に「感動しました。私は理系なのに、ああいうセンスがないんです」と感想を漏らしたという。

 数学を通して、自分以外の考え方やセンスを認め、率直に他者を褒めることができる。そこに大谷の「バラバラでいっしょ」という違いを認める教育が生きている。

中学校に習熟度別コース
長年の取り組みにも改善

 中学校の新たな取り組みについて角谷有一教頭に話を聞いた。それによると、習熟度別に「バタビアコース・マスターJr」(1クラス)と「同コアJr」(2クラス)の2タイプのクラス制が来年度からスタートを切る。マスターJrでは積極的に先取り学習を進め、主要3教科にウエイトを置いた授業を充実させていく。2タイプのクラスは互いに学年ごとに若干の入れ替わりがある見込み。マスターJrからコアJrへの変更は希望に応じてだが、コアJrからマスターJrへは条件を満たさなければならない。

 バタビアシステムは授業を1人はその教科担当が、もう1人は担任が1組となって行われる授業形態。担任はその教科を専門的見地からではなく生徒と同じ目線にたって授業を受けるため、教科担当が見過ごしがちな生徒のつまずきの原因を把握しやすいメリットがある。百年以上前にアメリカのバタビア市で始まったことから、その名がついた。国語については4年前から1クラスを2つに分け「表現」の授業を行ってきた。大谷では当初英数国3教科の授業でスタートし、現在は英数2教科で実施している。もともとAO入試など多様化する大学入試に対応するため始まった授業だが、書くことを意識して読む習慣をつけ、初めて触れる言葉を自分の中に取り込むことを意識することで、語彙を増やし表現の幅を広げようとする取り組み。

 このほか火曜、金曜の週2回、7時限目に行われてきた「担任指導」はコアクラスでこれまで通り引き継がれる。担任指導は主要3教科を中心に確認テストを実施し、達成度別補習指導を行ったり、課題を出したり個別的対応を行う課外授業。苦手教科を克服する一方で、得意教科を先取りしいっそう高度な学習を進めることができる。

 先取り学習を積極的に行うマスターJrクラスでは、「担任指導」の授業は廃止するが、確認テストの取り組みを残していくために、また読書や計画表作りなど、この授業の内容を凝縮した新たな取り組みとして朝学習(15分間)を始める。この朝学習はコアJrの生徒たちにも実施し、結果的にはコアJrの担任指導等の取り組みが厚くなる。

 また表現力の向上については、毎年行われる大谷の名物行事の「演劇コンクール」に向けての取り組みも文章力のみならず人間関係を築く上で欠くことのできない表現力を育成するプログラムになっている。教育的ねらいは多面的だ。

 角谷教頭曰く「私は40年前の大谷の卒業生ですが、その頃から学校行事としてクラスで演劇を発表していました」と。演劇コンクールもまたバタビアシステム同様、その時代の子どもたちに意味あるものとなるよう改善が加えられながら実践されてきた行事である。

コース、クラスを細分化
さらに面倒見の良さを追求

 中学校のコース設定により、中高一貫の6年間を最初の2年、その次の3年、最後の1年という「2.3.1」タームに分けることとし、最終学年で進路指導性を高めるシステム構築が進められている。

 高校には現在、国公立大への進学を目指す「バタビアコース・マスタークラス」と、得意科目を伸ばし、苦手科目を克服しながら難関私大への進学を目指す「バタビアコース・コアクラス」、さらに、興味関心の幅が広く部活動や課外活動に取り組みながら志望の進路実現を目指す「インテグラルコース」がある。

 この3コースを高2終了時、場合によっては高3の2学期終了時という細かな節目でさらに細分化し、より精度の高い進路指導を行っていこうとするもの。詳細については具体的な発表を待たなければならないが、たとえば最終学年で70名程度のマスタークラスを再編成することが検討されている。実現すれば高2後半ぐらいから急速に学力を伸ばしてくる生徒に高度な受験指導を受けるチャンスが巡ってくる。システム再構築のねらいは、最後まで頑張り通す、最後まで可能性を追求する姿勢をもつことにある。

 また、インテグラルコースや一部コアクラスから指定校推薦制度、パイロット校制度など各大学との連携を活用して進学する生徒は、高3の11月頃に進路が決まる生徒もいる。そうした生徒には高校課程の復習や大学生活に向けた準備やケアも必要との考えから、ホームルームとは別に目的別クラス編成も検討中。

 コース、クラスを細分化に加え、もう一つ国公立大学受験対策として始まった数学科の取り組みがある。受験者がいる国公立大の学部の傾向を7年程度さかのぼって専門的に研究する担当を設け、受験大学別に時には1対1で面倒をみていこうというもの。

 昨年、神戸大を志望していた生徒はセンター本番直後の予備校の判定システムで「D判定」を受けた。普通ならあきらめ半分で受験するところ、この生徒は最後までこの個別特訓を受け合格を手にした。「あの時は数学科全員で喜びました」と、今思い出してもうれしそうな表情の梅垣教諭。面倒見の良さは、コースからクラスへ、クラスから進路別対応へ、そこからさらに個別特訓へと向かわせている。

「応援するで」の空気の中で

 最後に「大谷らしさ」を象徴するエピソードを梅垣教諭が紹介してくれた。4年前、当時の高3生が文化祭で100キロ駅伝を企画した。文化祭といえば9月。受験に向けラストスパートをかける時期だが、生徒の駅伝への意気込みは異様に強かったという。学校に応援する空気は広がっていたが、安全上の問題から保護者の反対があった。生徒たちは安全性の根拠を示し保護者を説得、理解を求めた。

 これに感服するように、「100キロの全行程で救急車を伴走させましょう」という保護者が現れた。これで企画は一気に実現。生徒らは夜中の3時、敦賀を出発し学校を目指した。その様子は地元KBSテレビの番組で放映され、生徒はもとより保護者にとっても教員にとっても忘れられない文化祭となった。「本気で何かするなら、応援するで。そういう空気がこの学校にはあります」と梅垣教諭。
生徒の真剣さ、本気、一途さを受けとめることで、学力、胆力、そして底力が養われていく。そのことを数限りなく経験してきた教員たちが、その日も校内を忙しく動き回っていた。

 
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