平成23年、中学部スタート
第1期生としての誇り
壮麗な富士山を眼前に望む高台に立つ星陵中学校・高等学校。昭和50年創立の高等学校は、近年、東大、京大、国立大医学部、早慶上理、MARCHへの合格者を輩出し、地域屈指の進学校としての評価を固めている。
昨年、スタイリッシュな新校舎が完成。太陽光発電を完備し、自然環境に配慮した、次世代型の教育空間だ。この最先端の学び舎を得て、星陵中学校の新たな歴史が始まった。「私たちは皆さんを心待ちにしていました」と坪井正明校長の祝辞で迎えられた1期生は、地元小学校でもトップクラスの子どもたちだ。県内最高の受験倍率を勝ち抜いた彼らの心身の成長を、橋本正学年主任は1年間見守り続けてきた。
「本校が目指すのは、『セルフリーダーシップ(自己教育力)』を備えた、心豊かで調和の取れた人間、グローバル・リーダーの育成です。その命題を掲げる学校の1期生としての誇りが、生徒の心に育っていることを実感する1年間でした。外部の全国模試を初受験する際、彼らが見ているのは『全国』における自分の位置です。二度目の模試では、成績中下位層の生徒が『自分たちが頑張らないと』と奮起し、平均偏差値を底上げしました。数値もですが、モチベーションと潜在能力の高さは、嬉しい驚きでした」
しかし橋本学年主任は、「本当に求めているのは、学科の点数のような『小さな学力』だけではなく、もっと『大きな学力』」と言い切る。自分たちの風を起こすために必要な能力として指針にするのは、OECDの「キー・コンピテンシー」の学力観だ。星陵では学校生活の隅々に反映させている。
昨秋、橋本学年主任は、1年生だけの生徒会役員に、「球技大会」の企画運営を一任した。コミュニケーション力・チームワーク・問題解決能力は、グローバル社会のリーダーの必須能力だ。生徒たちは教員の予想を遥かに超える行動力を発揮した。
「生徒会が学年を動かす。他の生徒も『自分たちの球技大会』に向けて主体的に動く。教員は手も口も一切出しません。彼らが、いつどんな打ち合わせをしてきたのかも知りません。でも当日朝、教室に行くと、生徒たちはすでにグラウンドに出ていて、備品準備やライン引きなど全員で動いていた。会の進行・表彰・最後の片付けまで、完璧にやり遂げていました」
今春、初めて後輩を迎える第1期生。これからも常に先陣を切り、学校を牽引していく存在として確かな自信を身に付けたことは、想像に難くない。
新しい学力を、生きる力に
学校のフレームを超えた学習
星陵の学校生活は密度が濃い。朝テスト・朝読書から始まる7時間授業。部活動も活発で、最終スクールバスは19時発。橋本学年主任は「時間に制約があるので、生徒たちは時間の使い方を工夫する術を学んでいきます」と語る。
国数理は標準より35時間増、英語は70時間増。3年間で標準より525時間多い授業数を確保し、放課後は個別指導も行う。英数は検定外教科書を使用し、1年次は習熟度別「α」「β」の2クラス体制(2年次は3クラス)だ。
2月模試の結果では、第1期生には成績下位層を占める生徒が少ない傾向が現れた。「伸びこぼし」「落ちこぼれ」を出さないという教員の熱意の成果もさることながら、橋本学年主任は、もうひとつの理由をこう付け加える。
「βクラスの意欲喪失が心配でしたが、生徒たちは『習熟度別』をポジティブに解釈している。αとβの境界の生徒は『私にはβの先生の授業のほうが理解しやすい』と、自分で選択している。教員側が点数で分ける習熟度別授業とは違う次元で、生徒たちは自らの学び方をデザインしているんです」
「自律的な行動力」の他、キー・コンピテンシーには「プレゼンテーション能力」さらには「大きな展望の中で活動する力」が挙げられている。
昨年度、「サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)」の採択を受けて、星陵中は「富士山と共に生きる植物」の講座を通年で開講した。富士常葉大学の教授とともにフィールドワークを実施し、グループ研究を論文にまとめて製本。さらに保護者などを招いた成果発表会で、パワーポイントを用いたプレゼンテーションを行った。これらの作業を生徒は自主的に行うが、真に目指すレベルはその先にある。富士の人工林調査を足がかりに、伐採するか否か、跡地の活用法は、費用は、課題は…と思考を展開する「探究力」だ。実際、風力発電所を建設する案から、エネルギー問題まで踏み込んで考察するグループも現れたという。 |
「知育・徳育・体育・美育」の4つのプログラムの中でも「美育」は他校とは違う切り口を持つ。芸術から科学まで「本物」に触れることに重きを置くが、「観て終わり」にはしない。生徒たちは1年次に「静岡県立美術館」で写生を行った。橋本学年主任は言う。
「芸術家を目指すわけではなく、全教科の『観察力』につながるんです。『本物』が題材ですから、機会が増えるほど目が肥え、物事の本質を見抜く力が養われる。頭が柔らかい時期で興味関心も高いので、心動かされたモノは、簡単に忘れないし長期記憶に入ります。すべての教科学習の質のレベルアップに結びつくと考えています」
「星陵に行って学びたい」
明確な意志を持つ第2期生
平成24年1月、第2期生の入試が実施された。下村博寿入試広報課長は初年度とは違う手応えを掴んだという。
「2期生は、『星陵で学びたい』と心から願い、勉強を頑張ってきた子どもたちばかり。嬉しい限りです。初年度との大きな違いは、在校生の笑顔や、きちんと成長している姿を実際に見てもらえたこと。星陵中の中身を確認した上で、選んでいただいたことですね」
昨年も盛況を呈した学校説明会だが、今年度はさらに熱い視線を集めそうだ。橋本学年主任は、「理想論でだけでなく、データなどを提示して、生徒の実像や伸びしろを伝えられる時が、ようやくやって来ました」と語る。星陵中学校が求める生徒像を伺ってみた。
「小学5・6年生の基礎基本をしっかり復習してほしい。そしていろんな事象に興味関心を持つ意欲を持ってほしい。『じゃあ君はどうするの?』の問いかけに対して、知識を活用しながらじっくり考えて、自分なりの解決策を見出す力は、星陵に入学してからも、いろんな場面で求められる能力です」
星陵中学校が体現する「新しい学力」へのこだわりは、近い将来、教育界にも大きなうねりを起こしそうだ。
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