JR三島駅から徒歩20分、閑静な住宅街の中にある三島高等学校は、昭和9年に創立した三島実科高等女学校を前身に、今年で77年の歴史を数える。平成元年に、目まぐるしく多様化する社会変化に対応し、普通科・情報処理科(現情報ビジネス科)・福祉科・生活デザイン科の4学科体制とした。生活デザイン科は1学年1クラスの少人数制が特徴で、学年を超えての交流も深く、3年目にはクラス全体がファミリーのようになるという。
今回は授業風景を取材させていただいた。イベントやコンサートを想定し、ステージセットの模型を作り上げるという、専任の柴田寛志先生が担当する3年生の「ステージデザイン」の授業だ。机にじっと座って、細かな作業に集中する生徒、教室を歩き回り、友達と作品について話し合っている生徒、先生に質問して、アドバイスをもらう生徒…。まずはその自由な雰囲気に驚いた。作品も実に個性にあふれ、それぞれの生徒の特徴が出ているようだ。
学科長の後藤芳子先生は「自分の感性に自信を持ち、社会に出てから、楽しんで仕事ができるように育てたい。さまざまなことを体験させ、適性を見出して、その中からその人らしい生活をクリエイトしてくれればと思い、生活デザインと名付けています」と語る。実際、コンテストなどに出るデザインの方向性も、生活に密着したアイデアが特徴だという。
デザイン系と美術系、ふたつの授業内容に、彫刻や製図、コンピュータの授業を加えて、幅広い分野を学ぶことができるよう準備。能の権威である宝生流の辰巳満次郎氏が来校し、実際に使う衣装や楽器を紹介する一方、能の歩き方講座など、本物に触れる授業もある。また、3年間を通して、色彩検定・レタリング検定の資格取得や各種コンクールへの参加にチャレンジする。過去の受賞歴はグランプリから採用まで、かなりの数だ。生徒たちを導く講師陣は、画家や彫刻家、一級建築士など実際に一線で活躍している人ばかりだという。
続いて3時限目。画家であり、講師である水田大輔先生の授業は、毎年行われるファッションデザインコンテスト「ファッションアワード」参加に向けてのデザイン画制作だ。過去に作られたデザイン画を参考に、こちらも各自自由に制作に取りかかっている。先生が各デザインを解説し、生徒たちは作りこみを考えながらデザイン画を描く。それらを見ながら、アドバイスする水田先生。
ファッションアワードは、まずデザイン画で一次審査が行われ、それに通ると、その衣装を実際に作って、ファッションショー形式で発表する。チームを作り、そのデザインの意図を相手に伝わるように説明していくことによって、コミュニケーション能力、プレゼン能力も磨かれていく。
「この学科では頭ごなしに生徒を叱ることはない。先生たちは、生徒たちの話を理解するまでしっかり聞き、それに沿えるよう努力しています。教師との信頼関係がしっかりしているから、生徒たちもとてものびのびとしていますね」(水田先生)。 |
平成16年には地元で開催された「三島能」のために、美術部が中心となって、舞台用の鏡板を制作した。これは今でも地域のイベントや舞台などに貸し出しているという。一昨年は三島市商店街の袖看板のデザインを依頼され、制作。そして昨年は、地元小学校校章デザインコンテストに、デザイン科の生徒の作品が採用された。地域との共同作業も確実に進んでいる。
卒業後はほとんどの生徒たちが美術大学や専門学校に進むという。卒業生の中には、絵本作家や漫画家、イタリアでオペラの舞台美術を手がけるアーティストや、仲間同士で会社を立ち上げる者もいる。皆、この学科で自由に自分の発想を育て、伸ばし、自らの感性を社会で表現している。
特徴的な学科は生活デザイン科だけではない。福祉科は全国の高校に先駆けて設置され、最短で介護福祉士になれるコースもある。4コースに分かれる普通科も、国公立大学を目指すコースやスポーツ健康コース、観光文化コースとユニークだ。学びを楽しみ、社会に出ても、自分を生かして活躍することができる。三島高校はそんな人材を大事に育て、羽ばたかせることに邁進している。
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