職員全員で生徒たちを見守る姿勢が
深い絆と信頼関係を作り上げる
昭和35年、「心の教育」を重視する全寮制高校としてスタートした麗澤瑞浪高等学校。時代の流れに合わせて、平成8年から通学生の受け入れを開始し、現在、学園全体で6割の寮生と4割の通学生で構成されている。北海道から沖縄まで全国各地から入寮した生徒たちは、チューターと呼ばれる寮担当の先生のもと、自治的な寮生活を行っている。進学先、就職先から、自立性・人間性ともに高い評価を受ける寮生に、地元ではあえて入寮を選ぶ家庭もある。
「寮があるからかもしれませんが、教師と生徒の信頼関係は深いと思いますよ」と語るのは井上正信教頭。担任、クラブ活動担当者、チューターが常に連絡を取り合い、生徒情報を共有。また、各学年フロアには第2職員室である「担任室」があり、一人ひとりに目が行き届くよう、常に教師が生徒たちの近くにいる。教師や職員全員で生徒を見守る校風が、生徒たちの大人に対する信頼と安心感を育て、のびのびと勉強や部活に打ち込むことができる土台となっているようだ。
「競争主義から外れても、礼儀を大切に、心を磨くのが一番の教育だと思うんです」
創立者の教育の理念に基づいて、中学はもちろん、高校でも週1回道徳の授業があり、「心の教育」に力を注いでいる。知育に偏らず、「自立、感謝、思いやり」の心を育て、人々に幸せを与えられる、社会貢献できる人格の高い人材を育てるのが目的だ。
普段も服装や風紀に関しては、教師たちが手をかけなくても生徒たち自身がルールを守ろうとする意識が強い。
自習ではなく「自学」を提唱
自ら選び、学ぶ生徒たち
高校はコース制がなく、どのクラスも同じカリキュラムで進む。2年生になると各生徒の進路に合わせ、豊富な選択科目から必要なものをセレクトしてカリキュラムを組み立てることができるため、個性を生かした無理のない学びのスタイルが可能だ。クラスこそ選抜と普通にわかれるが、これも進級時に移動可能な緩やかな枠組みだ。
放課後や長期休業中の講習も充実しており、必要な生徒は選択、活用できるため、大学受験は学校の学習指導だけでしっかり対応できる。同校
では、学校週5日制になっても土曜日の4時間授業は続けてきた。昨年、東大現役合格を果たした生徒は、「塾に行く必要はなかった」とコメントしている。
「自ら勉強する“自学”が身に付くように工夫しています。与えられるだけではなく、自ら勉強することでよりしっかり身に付きます」
1、2年の選抜クラスでは、3日間の自学合宿をする。ここでは「自学、独学、黙学」を掲げ、一人で黙々と学習する訓練をする。
普段は図書室と自学室とを併せた「自学センター」で、生徒たちは図書室の書籍を参考にしながら、自ら勉強ができるようになっている。ここでは専任の司書が、いかに子どもたちに読書に対する興味を持たせるかを考え、常に工夫している。世間で話題の図書から司書こだわりの特集スペースなど、見やすく、目に付きやすいようにレイアウトされている。
文武両道を極めるため、高校2年生までは全員が必ず部活動に所属。剣道部の全国レベルの活躍もさることながら、テニス部や弓道部も全国大会の常連だ。また太鼓部も全国レベルで活動しており、毎年、瑞浪市の成人式でオープニングの客演に招かれているほか、伊勢神宮の日本太鼓祭にも招待され、プロに混じって演奏している。
「10代に身体や心を鍛えるのはとても大切。本当にみんなよく頑張ってくれます。勉強も部活も徹底的にやったらさぞ疲れるだろうと思われるでしょうが、それが全く問題ない。そのあり余るパワーにいつも感服しているんですよ。逆にこの年頃の子どもたちは、何もしないほうが、かえって不健全かもしれないですね」。もちろん部活動でも、掃除や礼儀などのマナーをしっかり教えている。 |
一人ひとりを大切にする・・・
その理想を実現する
昨今、食育が叫ばれているように、子どもたちの心と身体の発達には、正しい食事は欠かせない。麗澤瑞浪では、学校給食のアウトソーシング化が進む中、学校の職員として専属の栄養士がおり、食べ盛り・育ち盛りの生徒たちのことを第一に考えたメニューを学校内の厨房で調理、提供している。1,000人入ることができるという大食堂では、お昼になると生徒たちが一気に押し寄せ、全員が楽しそうに食事をする。味は生徒にも保護者にも定評があり、毎年卒業式には卒業生とその保護者、学園スタッフも含め、みんなですきやき会食をするのが恒例だという。
本校舎の一角には、入学した生徒の名が一人残らず刻まれ、総合受付ロビーの壁には第一期からの卒業生の顔写真が飾られている。学校にかかわった一人ひとりを本当に大切にしている様子が感じられる。写真の中の笑顔には、麗澤瑞浪を母校とした誇りが現われているようだ。
「麗澤瑞浪の生徒はひと目でわかるよ。礼儀正しいし、服装もきちんとしてる。私も孫は麗澤に入れたいと思っているよ」。瑞浪駅前のタクシー運転手の言葉に、地元からの厚い信頼がうかがえた。それを井上教頭に伝えると、
「町での評判がいいとしたら、それは、今までの人たちが作り上げてくれた50年の伝統があったからだと思います。ありがたいですね」。どこまでも謙虚な井上教頭の姿勢に、まさに麗澤瑞浪の理念が体現されていた。
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