国公立合格昨年比2倍強
要因は意欲湧く研究プログラム
公立志向が強いといわれる静岡県で、ここ数年、国公立大学への現役合格者数を右肩上がりで伸ばしながら、文部科学省のスーパーサイエンス・ハイスクールの指定校として特色ある教育を打ち出しているのが静岡北高等学校だ。
5〜6年前までは、国公立大学の現役合格者数は5〜15人で推移していたが、2004年度33人、2005年度37人、2006年度34人と、近年は30人以上のラインを安定的に維持していた。それを今春一気に67人の合格者とし、国公立大学現役合格者数ランキングで県内の全高等学校144校中、一躍、22位(私学では5位)に浮上した。
しかも合格者数を底上げしたのは、普通科進学コースの25人の生徒たちだ。同校ではこれまで理数科、国際コミュニケーション科の生徒を中心に国公立大学に合格者を出してきた。だが、この2学科を合わせた生徒数は80人程度であることからすると、30人以上の合格者はすでに高い合格割合だったといえる。今回、2学科に続き、普通科進学コースの奮闘で今後に対する期待感が一気に広がりを見せている。
同校の入試広報課長の金丸真司郎教諭によると、「入学当初、大学進学を希望していた生徒は約34%だったが、実際は54%の生徒が進学した。3年間で高まった進学意欲が今回の結果に結び付いている」と分析する。国公立大に合格した生徒の中には、入学時に「国公立なんて本当に行けるんですか」という反応を見せた生徒が少なくない。いわば半信半疑の生徒にインセンティブを掘り起こす段階から進路指導を始めたようなものだ。そして、進路指導と一体化して実践してきたのが課題研究プログラムなのである。
同プログラムは、実験・検証・調査・考察・まとめといった一連の学習を通して、研究者や技術としての資質を身に付ける取り組みで、静岡大学、静岡県立大学の協力を得て、当該施設や設備を使ってプログラムを進めることにより、大学での研究を疑似体験するような魅力がある。この体験を通して探求意欲が高まり、志望学部まで明確に決める生徒もいて、実体験型進路指導ともいえる役割を果たしている。
ちなみに昨年度の課題研究論文では、@理数科「オレンジの成長解析」「養液栽培について」 A国際コミュニケーション科「社会保障制度」「日本と諸外国の文化比較」 B普通科高・大一貫コース「竹炭による水質浄化実験」「風洞発電」など、時代に即応したニーズの高い論文が多く発表されている。
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身近な課題から海外研修まで
広がるSSHの取り組み
同校が科学教育、理数教育を重点的に行うSuper Science High School(SSH)校の指定を文部科学省から受け、大学や各研究機関と連携し、科学者育成のための取り組みを始めて1年。以前から取り組んでいた地元の巴川水質調査では高度な実験を行い、筑波宇宙センターや京大砂防研究所、スーパーカミオカンデなど国内の最先端研究について、訪問学習を重ねてきた。
また、実践の場は国内だけにとどまらず、全米600校の生徒が素粒子物理学について研究活動報告を行うアメリカ国立加速器研究所を今夏訪問している。研究活動報告は無論英語で行なわれるため、参加チームは英語の集中講義を受け臨んだ。帰国後は研修仲間同士がインターネットを通じて交流を続けるというから、まさに「次代を担う地球規模の科学者育成」というSSHの目的に適った実践といえる。
また同じく今夏、オーストラリア国立科学館クエスタコンで開催された中高生対象の発明会議にも同校の女子生徒が国内から2名という選抜枠をくぐり抜け参加している。会議はモノづくりや開発に必要な知識やスキルを学ぶだけでなく、広い視野、創造性、ネットワーキング・スキル、リーダーシップなどを総合的に身につける研修(静岡北高等学校THE-K-TIMESより)で、現代の高校生に求められるコミュニケーション能力、問題解決能力を養う研修だったようだ。
SSHの指定を受けてからわずか1年。その取り組み内容の充実度には文部科学省の担当者も「何年分かの取り組みを1年でやりましたね」と評価しているという。国内では理科離れの傾向を心配する声もあるが、金丸広報課長は「小学生段階では決して理科は苦手な科目ではない。ただ、高等学校で教科学習としての物理や化学を勉強していると、理科好きには育ちにくい。SSH関連の学習は、体験的、総合的視野のもとに学習するので教科としての理科を勉強するモチベーションを高める効果がある」とSSHの意義を語った。
次の目標は三桁
来年度入試では理数科の募集定員を40名から90名に増やす。金丸広報課長は「受験生には、本校の取り組みや手間暇かけた進路指導をじっくり吟味して学校選択を行ってほしい」と話し、「将来的には国公立大合格者を三桁に」と目標をあげて締めくくった。
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