「地域唯一のカトリック学校の灯を灯し続ける」
覚悟の先に変化と発展がある
全国的な少子化の中、この20年の間に浜松の女子高はほぼ共学化し、現時点で同校を含めたわずか2校となった。浜松海の星高等学校でも、昨年の生徒募集結果が定員を割り、今後の存続について理事会で繰り返し検討した結果、昨年9月に「共学化」の提案が現実化のレールに乗せられた。今年4月の全校集会で在校生や保護者への報告・発表、そして4月28日には記者発表を行った。
「理事会や同窓会、PTA幹部の皆さんとも協議し、やはり学校存続のためには必要な選択であるということから、特に異論もなく、決定しました。カトリックの学校としては県西部には本校しかないので、その灯を消さないという意義もありますが、一方で、今後の男女共同参画社会やグローバル社会へ対応する人材育成が求められ、男女それぞれが特性を生かして協働する『多様性教育』が重要であると感じたことも理由のひとつです。
ただ、在校生の皆さんは今まで“女子高”でしたので、とまどいもあったかとは思いますが、全体的に落ち着いて受け止めていただいていると感じています」
(北脇保之理事長)
共学化をきっかけに、学校名と制服も変わる。愛着のある校名を変更することで、新しい学校をつくるという決意表明と覚悟を見せる。ただ、伝統でもある校訓と校歌は変わらない。校訓「真理を学び、愛に生きる」は性別を意識したものではないため、そのまま大事にしていくという。
コースは、新しく「国際特進コース」と「国際教養コース」の二つに分かれる。特進は難関国公立・難関私立大学受験を目標とし、教養コースは生徒に合わせたさまざまな進路に対応する。いずれも国際教養教育に力を入れ、世界に貢献する人材を育てることを目的としている。その人材とは、まずはしっかりとした人生観があり、自分の意見を持つこと。次に自身、および相手のそれぞれの土台となっている文化の相違を知り、協働できること。さらに英語でコミュニケーションができることなどの要素があげられる。
「キリストの言う“隣人愛”の実践により、世界に貢献する人材を育成するのがひとつの目標。今、グローバル化がどんどん進んでおり、その中で世界中にさまざまな課題もあります。そういう社会で生きていくこれからの人は、身近な地域のことから世界のことまで、自分が生きている場所をひとつの世界という広い視野で捉えることができるようになってほしい。そして社会を少しでも良くしていくために、自分が何ができるかを考える、そういう人を育てていきたい」
それらを踏まえ、浜松聖星高等学校は国際教養教育に特色のある進学校を目指していきたい。「男子と女子ではそれぞれ特性があります。もちろん一言ではくくれないが、男子は競争意欲があり、集中力・瞬発力を発揮する。女子はコツコツと着実に作業し、粘り強い。協調性があり、チームで一緒に登っていく気持ちが強い。男子が入ってくることで、女子に刺激を与えることになり、男子も女子から刺激をもらう。お互いの良い部分が噛み合うことで活力が出て、生徒たちも学校もさらに大きな成長につながればいいと思っています」
(北脇理事長)
部活も盛んな同校は、男子生徒のためにサッカーやバスケット部、テニス部を新設する。従来の吹奏楽や剣道部・弓道部などは男女混合となる。現在男子トイレや更衣室、部室などの施設整備が進行中だ。
エンパワーメントプログラムで
英語教育と異文化
コミュニケーションが充実
今年度より同校初の男性校長として就任した重信明利校長は、現在来年度に向けてのさまざまな準備の真っ最中だ。変化の狭間に就任し、大役を担うことになった重信校長に今後に向けての思いと方針を語ってもらった。 |
|
「共学化の話を聞いたとき、私はすぐ賛成しました。やはり社会的な事情を考えると、この先、共学にしないと難しいと思いましたし、何より私自身が、男子生徒を育ててみたいという思いがあったのです。以前、お世話になっていた共学の学校で、男子生徒とかかわる面白さを感じていたので、海の星も共学になるといいという気持ちがありましたね。
学校名も変わり、ある意味一から積み上げていくのですが、新しい名前でどこまでチャレンジできるか楽しみです。どうせ新しくなるなら、今までにない学校をつくりたい。大げさな言い方になりますが、浜松の文化を変えられるような学校にしたいと思っています」
もともと浜松は産業と工業の町であり、就職すれば海外勤務の可能性はある。その一方で、外国人労働者が集まり、観光都市として観光客も多い。今後ますます国際感覚は必須になる。来年からの2つのコースが「国際教養」を掲げるのは必然だ。
浜松海の星高等学校は昔から英語教育には定評があり、留学プログラムが充実している。現時点では、カナダに1年、イギリスに半年という長期のコースがあり、さらに来年度からは1年生の3学期の間だけオーストラリアに行くという「ターム留学」が始まる。修学旅行もフィリピンのセブ島に行き、語学とグローバルな問題についての研修が盛り込まれる予定だ。
さらに来年度からはエンパワーメントプログラムを加え、英語&異文化コミュニケーションスキルを深めていく。これは夏休みに英語圏の学生を迎え、高校生4〜5人のグループを一人の学生が担当し、テーマを決めて5日間、徹底的にディスカッションを行うもの。途中、発表のプレゼンを交えて、最終日には生徒一人ひとりが英語でスピーチを行うというものだ。特進コースでは必須となり、教養コースは希望者が参加できる。
また、高大接続改革もしっかり見据え、英語をはじめ、各教科においてもアクティブ・ラーニングを積極的に取り入れ、教員や他の生徒との協働を通じて考える力を伸ばす機会を用意。思考力、判断力、表現力に加え、生徒の質問力を伸ばす取り組みを行っていく予定だ。
「創立以来60年、ほとんど同じ体制のまま続いてきたのですが、それをすべてゼロに戻して、新しいカトリックのミッションスクールを、新しい建学の精神でつくっていく所存です。もちろん、キリスト教的世界観に基づいた教育をベースに、宗教の時間も毎週取り入れ、宗教の免許を持った先生に指導をしていただきます。心の教育という面では、大きな強みです。カトリックのミッションスクールという芯の部分は大事にしていきます。その上で、これからのミッションスクールは、こうあるべきということ自体を新しく考えていきたい」
まさに新時代を迎えようとしている浜松海の星高等学校は、重信明利校長のもと、世界を舞台とした大きな進化が期待できそうだ。
|
|