学校散策 掲載:塾ジャーナル2020年11月号/取材:塾ジャーナル編集部

高校から新しいスタートを切る!
3年かけて築くクラスの人間関係力が確かな学力と社会で生きる力を育む

正則高等学校

 「日本を背負って立つ青年たちのために、もっと人間としてひろがりのある『正則』な教育をしなければならない」――明治期の教育者たちの精神を守り続ける正則高等学校は創立131周年を迎える。クラス替えをせず育むのは、あらゆる人間と協働し、尊重し合える人間関係力だ。自他の特性を知り、一人ひとりが進路を切り拓く力を獲得するために、生徒と教員は日々「本物の学校らしさ」を追求する。


学校とは? 仲間とは?
「正則の強み」を再認識

2020年春、新型コロナウイルスは、正則高等学校の教員と生徒たちに、「正則らしさ」の価値を再認識する大きなチャンスをもたらした。教員として31年間「正則なる教育」を大切に実践し続けてきた千葉修一校長が、数ヵ月前の状況を振り返る。
 
「3年間、クラス替えなしで濃密な人間関係を構築するのが本校の特色なんです。そのなかで生徒たちがぶつかり合い、学び合い、成長することを最も大切にしていますが……それができないわけです」

6月、オンライン授業の時間割が組まれ、Microsoft Teams上で課題配信が始まった。2、3年の生徒たちは、SNSでつながってクラス内で励まし合い、クラブ活動もオンラインでできることを工夫しつつ再開した。出席番号奇数・偶数ごとの分散登校が始まると、1年生の担任たちは、ビデオを駆使して校内やクラスメートの様子を在宅生に配信。作文を介して思いを共有するなど、学校そして新入生同士がつながることに注力した。生徒に寄り添う「正則らしい」クラスづくりに、入学生の保護者からは「丁寧にきちんと段取りを踏んで、高校生活をスタートしてくれて非常にありがたい」という声が届く。

「僕たちも『学校の意味』をすごく考えましたし、生徒たちも、人と一緒にいる意義をより深く意識した数ヵ月間になったようです。Withコロナの時代こそ『人と人との関わり』を大事にして、自分たちができることを主体的に考え、解決する行動ができたら、すごい力が築けるのではないかと思います」

入試担当室長・青山博之先生にも、コロナ禍を経て正則が得たものを聞いてみた。
「アナログかもしれませんが、私たちがこれまでやってきた人間教育こそ大きな力になり得ると改めて気づきました」

「高校で一歩踏み出したい」
視野と関係性が広がる3年間

2021年度の生徒募集要項では、併願推薦・併願優遇ともに学業成績基準は「3科10かつ5科16以上」。また次の3項目いずれかに該当すればプラス1点(上限)となる。「英検・数検・漢検いずれか3級以上」「3ヵ年皆勤または3ヵ年精勤」に加えて今年度は、「クラブ・委員会等の自治活動を3ヵ年続けた者、または生徒会経験者」が追加され、より門戸を広げたとのこと。特進コース等は設けていない。「生徒を区別、選別せず、等しく望む進路に挑戦できる学力を身につけさせる」ため、新入生は全員同じスタートラインに立つ。一方で独自の厳しさもある。学校相談会などで青山先生は受験生親子に必ず伝えることがあるという。

「服装や身なりには厳しいです。人と向き合い、関わり合いながら社会で生きる力を養う学校ですので、他人を差別すること、いじめなど絶対に許しません。『行事が楽しそう』に見える裏で、実は生徒たちは喧々諤々の話し合いを重ねて苦労して行事をつくり上げています。ほとんどの生徒がおとなしく、真面目ですが『一歩踏み出してみよう』と入学してくる生徒が多いですね」

正則生がどのような成長をたどるか、千葉校長は長年現場で見届けてきた。
「2年生で体験学習や学習旅行に行くと、『もっと学ばないといけない』と学ぶ意義を考えるようになる。体育祭や文化祭ではクラスメートが絡み合う中で、物事の見方や相手を見る目がつきます。特に3年生は、考え方が違う、自分とは合わない人も受けいれようと一段高いステージに上る。だから必要な時は意見を言い合えるし、手を結べる。こうした経験を乗り越えた人は卒業後にすごく強くなれると思います」

授業も行事も互いを知る場
誰もが輝ける多様な集団へ

正則では2年生から選択授業制だが、3年生まで「共通授業」があり基本学力と認識的学力を養う。SDGsやLGBT、人権、環境など世界の時事を取り上げて「いま世界で何が問題なのか」を認識する。社会への視点や人間の生き方など「自らに問いかける」キッカケを散りばめた授業が展開される。

活発な意見が交わされ、文章にもまとめ(正則では800字詰め原稿用紙)、深い議論が形成されるという。それを可能にするのが、3年間学級固定で醸成される人間関係だ。学力や進路が違う生徒たちが一つの集団をつくり、長い時間と経験を共にして他者を知り、影響し合い、高め合うのが「学校本来の姿=正則」の土台になっている。

「学院祭」は毎年約4000人が来場。ほぼ全クラスが演劇を披露し、後夜祭でグランプリが発表される。どのクラスもグランプリ獲得を目指し、オリジナリティはもちろん教室の内装までこだわり抜く。3年生は最後のクラス行事。「一瞬をいとおしむように活動している」と千葉校長。

「彼らが忌憚のない意見を飛び交わし、いかに違う個性・特性を生かして良きものを創り上げていくか――教員は1、2年生を3年生のクラスに連れて行き、その過程を見せるんです。圧倒された後輩たちが、どうすれば組織を動かせるのか、どんな集団に創り変えたいと考えるのか。今の時代にこそ必要な学びだと思います」

今年は初の「動画学院祭」、映像作品の競演になるとのこと。統一テーマは「結」。青山先生は、正則生の強みをこう分析する。
「こぼれ落ちる人を見逃さない、セーフティネット的な目配りができること。恐らく彼らが求める社会は『誰もないがしろにされない社会』。それが大事だと思う主権者になってくれると思います」

そんな社会は本当に実現可能だろうか、と問われたら、正則生なら凛としてこう答えてくれるだろう。
「その実現を目指して、みんなで話し合い、行動し続けることが大事だと思います」

正則高等学校 https://www.seisoku.ed.jp